きりたんぽ鍋

 コメの国・秋田を代表する郷土料理は、何と言ってもキリタンポとダマコモチ。新米が穫れる頃、ちょうど出回るマイタケやセリ、比内地鶏などと煮込むキリタンポ鍋やダマコモチの鍋料理は、コメの国にふさわしく、収穫の喜びを分かち合う食文化の一つである。
 キリタンポの生まれは、県北の米代川流域。マタギや樵が「非常食」として山に持って行き、ヤマドリなどと一緒に煮たのが始まりと言われる。「タンポの美味さは新米の出来次第」。さらに炭火で焼いたキリタンポこそ、昔ながらの秋田らしい味が生きている。
 秋田は、およそ半年が深い雪に覆われる。今ではパイプハウスを利用した冬季農業も盛んになってきているが、かつては農業生産活動のできない厳しい自然条件の中にあった。だからこそ農山村に生きる人々は、様々な生活の知恵を生みだし、冬を生き抜く貯蔵技術を高めていった。
 野菜や山菜を利用した漬け物、魚や肉を主とした保存食、果物の加工品、コメを利用したおやつなど、貯蔵技術を生かした料理は、とかく冬場の単調になりやすい食卓を、知恵と工夫を凝らしながら代々受け継がれてきた。
 大根を凍らせて乾燥し、貯蔵性をもたせた凍み大根は、田植え時の食べ物として、身欠けニシンや人参、昆布、大豆などととり合わせて煮しめ風に煮るもので、秋田の農村ならではの素朴な料理である。凍み大根や干し餅は、秋田の冬の気象条件を生かした食品貯蔵の技術の一つである。

ハタハタ

 夏の暑い盛り、よく冷えた冷やし汁に浮かせたキュウリやシソは、風味、歯ざわりとも涼味満点で、扇風機や冷房のなかった時代の知恵に驚かされる。
 また、祭りや祝い事では、豆腐かまぼこや豆腐の巻物は、色の出し方や模様の入れ方に工夫を凝らしており、お祝いのお膳を飾るにふさわしい芸術品である。戦前は、地域に何人かいる料理人の采配で3日がかり、4日がかりで手伝いの人たちがお祝いの御膳を作り上げたという。
 秋田は山菜やきのこの宝庫でもある。春の木の芽やシドケ、アイコ、コゴミ、ウド、ワラビ、ゼンマイ、フキ、ミズ、…アケビ、きのこなど、種類も食べ方も豊富である。また地域の特産品であるジュンサイやトンブリは、そのもののもつヌメリ、淡泊さなど、食材の特徴を活かした調理法が伝承されている。
 イナゴの佃煮は、はさがけした稲束に群がるイナゴを捕まえて作る料理だが、食糧難時代には、貴重な動物性の食品だった。
 秋田を代表する魚は、ハタハタ。このハタハタを使ったハタハタずしは、秋田の正月には欠かせない料理だ。正月を迎える準備として12月初めに漬け込み、隣近所寄り合っては、味比べをしたという。
 飽食の時代と言われる現代は、こうした知恵とまごころのこもった食文化も次第に消えつつあるが、それらを見直し次の世代へしっかり引き継いでいきたいものである。

「阿仁川流域の郷土料理」(建設省東北地方建設局森吉山ダム工事事務所)は、北秋田市の旧森吉町、旧阿仁町、旧合川町や、上小阿仁村などの阿仁川流域の家庭で、季節や行事のおり、昔から作られ食べられてきた郷土料理を、聞き書きし、地域の文化や風土を伝える貴重な文化遺産としてのひとつとしてまとめた本である。この本を基本に美食・秋田の食文化を紹介する。

<参考文献>

「あきた漬け物と保存食」「あきたの味」農山漁家生活改善実行グループ秋田県連絡協議会。
「秋田の物産カタログ」及び各市町村の物産カタログ等各種資料を参照。

写真:秋田のがっこ吊るし干し

写真:秋田の漬物