ほ場整備地区におけるスマート技術の現場実証結果について【スマート農業を支える基盤整備実証事業】
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秋田県農地整備課では、「スマート農業を支える基盤整備実証事業」(R2~R4)を実施しており、スマート農業に対応した今後の基盤整備の方向性を検討するため、今年度(R3)県内3箇所のモデル地区においてスマート技術の効果実証を行いました。
(スマート農業を支える基盤整備実証事業の概要についてはこちら↓のコンテンツをご覧ください)
実証内容
「Ⅰ 水管理労力の軽減」「Ⅱ 用水量の削減」「Ⅲ 適正区画規模の検討」「Ⅳターン農道の有効性」「Ⅴ 草刈り労力の軽減」のそれぞれの検証項目に関して、各モデル地区で該当する項目の実証を行いました。
具体的には、「遠隔操作が可能な自動給水栓を使用した水管理」や、「自動操舵システムやターン農道を使った農作業」「アーム式モアを用いた草刈りの機械作業」等を行い、それぞれの省力化効果等を分析しました。
各モデル地区の実証の様子については「秋田農林水産情報 こまちチャンネル」内のコンテンツ、「バーチャル秋田」にて動画とともに紹介しています。
こまちチャンネル バーチャル秋田「スマート農業を支える基盤整備実証事業」
実証結果
今回の実証結果から一部を紹介します。
【Ⅰ 水管理労力の軽減】
高野尻地区(北秋田市)において、スマートフォン等を使って遠隔操作が可能な自動給水栓による省力化効果を検証したところ、水管理時間が約6割削減されました。
検証目的 | 評価方法 | 検証結果 |
水稲に係る水管理(水位・水温確認、水口の開閉操作等)時間がICT機器導入でどの程度軽減できるか検証する |
自動給水栓を設置したICT区と通常の水管理を行う慣行区を比較 |
・給水栓操作回数 78%削減 ・水管理+移動時間 61%削減 |
ICTを利用した水管理では、対象ほ場が遠くなるほど大きな削減効果が見込まれます。
【Ⅱ 用水量の削減】
高野尻地区においてほ場からの排水量を観測した結果、自動給水栓の活用により流出量が約8割削減されました。
検証目的 | 評価方法 | 検証結果 |
自動給水栓を使うことで、細やかな水管理や無駄な放流の軽減による節水効果があるか検証する |
自動給水栓を設置したICT区と通常の水管理を行う慣行区を比較 |
・排水口からの流出量 78%削減 ・総給水量 33%削減(シミュレーション値) |
また、水温に応じた操作や水位設定など、細やかな水管理を行うことで、他のほ場に比べ米の収量、品質が良かったという評価もありました。
【Ⅲ 適正区画規模の検討】
横手地区(横手市)において、3.6ha区画、1.5ha区画、40a区画で自動操舵農機による農作業時間を比較したところ、3.6haのスーパー大区画ほ場では有人トラクターと無人トラクターの協調作業により、約2割~5割作業時間が削減されました。
検証目的 | 評価方法 | 検証結果 | |
水稲の基幹作業時間が区画規模によってどの程度軽減できるか検証する |
3.6haと、1.5ha、40a区画における自動操舵による農作業時間を比較 ※3.6haは有人トラクターと無人トラクターの2台協調作業。1.5ha、40aは1台での作業(耕起、代掻き) |
(3.6haと1.5haの比較) ・耕起 22%削減 ・代掻き 34%削減 |
(3.6haと40aの比較) ・耕起 19%削減 ・代掻き 46%削減 |
3.6ha区画の田植え作業においては、オート田植機により旋回も自動で行っていましたが、作業のストレスが軽減されており軽労化につながっています。
【Ⅳターン農道の有効性】
高野尻地区におけるターン農道を活用した作業時間から、ターン農道あり・なしの作業時間をシミュレーションしたところ、ターン農道ありの場合、作業時間が約1割削減される結果となりました。
検証目的 | 評価方法 | 検証結果 |
水稲の基幹作業がターン農道を活用することでどの程度軽減できるか検証する |
ターン時間や直線速度等を計測し、「ターン農道あり」の場合と「ターン農道なし」の場合で区画別に作業時間をシミュレーションで比較 |
・1ha区画、長辺200mの場合 8%削減 ・3ha区画、長辺300mの場合 11%削減 (※シミュレーション値 耕起・代掻き・田植え合計) |
例えば稲刈りにおいては、農道上で旋回することにより回転スペースの刈り取りが不要で良いとの声がありました。また、すべての作業で枕地(ほ場の端部)の掘り返しがなく、作業がしやすかったとのことです。
【Ⅴ 草刈り労力の軽減】
松ヶ崎地区(由利本荘市)において、トラクターに装着したアーム式モアを用いて農道法面の草刈り作業を実施し、人力の刈払い機による作業との比較をシミュレーションしたところ、作業時間が約8割削減される結果となりました。
検証目的 | 評価方法 | 検証結果 |
草刈りの作業労力をアーム式モアでどの程度軽減できるか検証する |
アーム式モアと人力(刈払い機)の作業時間をシミュレーションで比較(標準作業時間により作業能力を設定) |
・作業時間 84%削減 ・作業経費 55%増加(労働費は減だが機械費が増) |
草刈り作業の実演会においては、全県から多くの関係者が集まり関心を寄せていました。
作業時間が削減する一方で、機械費が計上されるため、経費は通常の作業と比べ増加する試算となっていますが、急な法面でも作業の危険性が少なくなり、また夏場の高温時においてもトラクター作業であれば熱中症のリスクも減ることから、安全面での効果も期待されます。
スマート農業を支える基盤整備実証検討会
本事業では、有識者や営農法人、地元土地改良区等のメンバーによる検討会を設け、現場実証を踏まえた今後の基盤整備の指針を検討することとしています。
今回、検証データの報告や今後の方向性検討のため、令和4年1月27日(木)に第2回検討会を開催しました。実証結果や検討会の意見も踏まえ、令和4年度にはスマート農業に対応した今後の基盤整備指針を作成する計画としています。
(検討会での主な意見)
1.データ分析結果について
- 水管理は相当省力化できると実感
- 自動給水栓は1枚に1箇所で問題ないとすれば、費用対効果の面でも今後導入が進むことが期待される
- ICT水管理だけの効果かどうかはもう少し検証が必要だが、収量、品質が良かった点もPRしていければよい
- ロボットトラクターの使用により省力化されているが、協調作業は追従するトラクターが同等の馬力でないと非効率
- 草刈りの安全性をどう評価するか検討が必要
- データが取れ蓄積できることで今後の営農に生かしたり、大学のような研究者や他地区に対してデータ提供するなど、様々検討してもらいたい
2.今後の方向性について
- ターン農道はロボットトラクターに相性がよく、どこからでも進入できるため、今後自動化が進むためには欠かせないと感じる
- ほ場整備計画における費用対効果を考える上で、ICTによる省力化はデータが無く踏み込めなかったが、今後新たな部分として検討を進められる
- スマート機器導入の費用が課題となるので、補助事業の活用や軽労化等の副次的な効果も評価して、導入が進むようにしてもらいたい
- まとめ方として、営農の時間軸や検証区分の横のつながりも考慮してはどうか
- 今回のとりまとめ結果が、若い人の農業への興味や将来の基盤整備につながればと思う