写真:日本六十余州国々切絵図
日本六十余州国々切絵図〔にほんろくじゅうよしゅうくにぐにきりえず〕

日本六十余州国々切絵図は、全国68か国にわたる一揃えの国絵図と、別様式による備前国絵図1枚で構成される合計69枚の国絵図一式で、秋田藩主佐竹氏の家蔵史料から秋田県所蔵となったものである。
江戸幕府は国家の統率者としての立場から、国単位の地図である国絵図と村ごとの石高帳である郷帳(郷村帳)及び城郭と城下町を記載した城絵図の作成を諸国の大名に命じ、それを提出させて幕府文庫(官庫)に保管した。こうした国絵図と郷帳を全国的規模で組織的に徴収したのは、慶長・正保・元禄・天保期の4回といわれているが、全国一揃えとして現存するのは天保国絵図だけである。また幕府は、寛永10(1633)年、巡見使を派遣して全国を検分させるにあたり、あらためて国絵図の作成と提出を命じた。これは寛永国絵図と呼ばれ、巡見使による携帯の便をはかるために、陸奥国・出羽国などを例外とすれば、多くは縦横1mほどの大きさに城地と街道及び村の配置等が描かれ、既存の絵図等を参考に簡略に描かれたものと考えられている。日本六十余州国々切絵図も同様の体裁を有しており、また寛永14年以前の内容が記載されていることから、寛永国絵図の模写図と考えられる。寛永国絵図の原本は現存しないが、まとまった模写図として秋田県公文書館及び山口県文書館(毛利家文庫)に一揃えずつ、岡山大学附属図書館(池田家文庫)に66か国分が伝来している。なお日本六十余州国々切絵図では、記載様式・描写・彩色まで全てが統一的に仕立てられているのに対し、毛利家文庫所蔵絵図では半数ほどにしか彩色は施されていない。日本六十余州国々切絵図は、現存する一揃えの国絵図としては、最も古い内容で描かれた国絵図一式で、保存状態も良い。地理的情報が十分でない江戸時代初期において、秋田県内はもとより、全国の様子を知ることが出来る一括史料として貴重である。

参考文献

川村博忠 「寛永国絵図の縮写図とみられる「日本六十余州縮写国絵図」」 歴史地理学 176号 平 成7(1995)年12月
川村博忠 『寛永十年巡見使国絵図 日本六十余州図』 柏書房 平成14(2002)年1月
白井哲哉 「「日本六十余州国々切絵図」の地域史的考察 -下総国絵図を事例に-」 駿台史学 104号 平成10(1998)年9月