ここでは、「前編」「実施許諾等編」「譲渡編」の3編構成で、県有特許の実施許諾等及び譲渡の手続きや注意点などを詳細に説明します。
 また、わかりやすくするために、特許に絞って説明しますが、実用新案や意匠についてもほぼ同様です。

県有特許の実施許諾等・譲渡の前に

単独出願特許と共同出願特許

 実施許諾等制度及び譲渡制度の説明の前に、特許出願には、県が単独で出願する場合と、民間企業等と共同で出願する場合がありますので、まずはこのことについて説明します。
 例えば、公設試験研究機関において、第3者が一切関与せず機関単独で研究開発を行った場合は、県職員である研究員のみが発明者となります。この場合、職務発明制度により特許を受ける権利を承継するのは、当然秋田県だけです。つまり、秋田県のみを出願人とする特許出願となります(県単独出願特許)。
 一方、公設試験研究機関において、民間企業と共同で研究開発を行い、県側研究員と企業側研究員とが共同発明者となった場合は、原則として、県側研究員の特許を受ける権利は秋田県が承継し、企業側研究員の特許を受ける権利は企業が承継します。つまり、秋田県と当該企業を共同出願人とする特許出願となるわけです(企業等との共同出願特許)。そして、その際は、お互いの持分が定められて、県と企業とで権利を「共有」していくことになります。
 実施許諾等や譲渡において問題となりやすいのは、後者の「共同出願特許」の場合です。なぜなら、権利が共有となっている以上、原則として、秋田県の考えだけでは実施許諾等や譲渡ができないからであり、共有者である民間企業の理解や承諾が必要な場面が多々あるからです。
 しかし、民間企業と共有しているとはいえ、秋田県の持分部分は「公有財産」ですから、県としては地方自治法、条例、その他各要領にしたがった適法適正な管理を要します。つまり、秋田県で定める手続きにしたがって実施許諾等や譲渡を行う必要があることを、あらかじめ当該企業と合意しておく必要があるわけです。
 県として、共同出願特許の実施許諾等又は譲渡を適法適正に行うためは、特に次の3点が重要となります。

  • 共有者との持分比率が適正であるか? 
  • 第3者に実施許諾又は譲渡する場合の手続きについて、事前に合意しているか?
  • 共有者が自ら特許の内容を実施する場合の手続きについて、事前に合意しているか?

持分比率の考え方と共同出願

 民間企業と共同で特許出願するためには、事前に当該企業とお互いの持分について合意しておく必要があります。持分比率の基本的な考え方は、図6のとおりです。

図:共同発明者及び持分の基本的な考え方

 持分は、「思想的貢献」の割合と「金銭的貢献」の割合によって決まります。
 まず、思想的貢献ですが、これは着想の提供や具体化における貢献であり、簡単にいえば、「だれがどれだけアイデアを出したか」ということになります。そして、「実質的かつ重要な思想的貢献」をした者だけが発明者となることができます。
 例えば、県と民間企業とが共同して研究開発を行い、県側研究員と企業側研究員がともに「実質的かつ重要な思想的貢献」をしていれば、両研究員ともに発明者(共同発明者)となるわけです。
 そして、職務発明制度により、県は県側研究員が有する思想的貢献の割合分だけ権利を承継し、企業は企業側研究員が有する思想的貢献の割合分だけ権利を承継するわけですから、まずは思想的貢献の割合がお互いの持分を決定する要素となります。
 しかし、思想的貢献の割合だけで持分を決めることは適切とはいえません。県と民間企業とが共同して研究開発を行ったとすれば、研究費用や研究設備などの面においてそれぞれ金銭的な負担が生じているはずであり、簡単にいえば、「だれがどれくらいお金を出したのか」という視点もあるということです。この金銭的貢献の割合も持分を決める要素となります。
 これら「思想的貢献」の割合と「金銭的貢献」の割合、そして、お互いに共同研究前から積み重ねてきた基礎技術や投資の程度なども考慮して、最終的な持分を決定します。

民法250条による持分の推定

 民法250条により、共有者の持分は、原則として「平等」、つまり、五分五分であると推定されますが、契約自由の原則により、契約書等で持分を定めればそれに従うことになります。
 図6の考えにより持分比率を決めることは決して容易なことではありませんが、その努力を怠り、安易に持分を五分五分としないようにご留意願います。

共同出願契約書の締結

 民間企業と共同で特許出願する場合は、持分比率のほか出願に要する費用の負担割合など記載した「共同出願契約書」を締結し、それに基づいて共同出願することになります。
 共同出願契約書を締結せずに民間企業と共同出願することがないように特にご留意願います。

持分に応じた費用負担

 秋田県では、民間企業と共同で特許出願する場合は、原則として持分に応じて出願料等を負担することとしています。
 出願料等をすべて共同出願人の負担とすることは、後の実施許諾等や譲渡に重大な影響を及ぼしますので、このことの遵守をお願いします。

実施許諾等及び譲渡に関する事前の合意

 共同出願特許に関して、第3者や共有者に対し適法適正に実施許諾等又は譲渡するためには、共同出願する前から、共有者とそれらの手続きについて合意しておく必要があります。
 例えば、民間企業と共同研究を行う場合には、共同研究着手前に「共同研究契約書」を締結しなければなりません。この契約の中で、共同研究の成果を共同で特許出願した場合を想定し次のことを定めておくと、後に起こりうる問題を未然に防ぐことができます。

  • 第3者に対する実施許諾は、県・共有者・第3者連名の契約により行うこと。また、実施料については、お互いの持分に応じてそれぞれ徴収すること。
  • 共有者は、自ら特許の内容を実施する場合、県と契約を締結する必要があること。
    この場合、県は自己の持分に応じて実施料相当額を徴収すること。
  • その他実施許諾等又は譲渡に関しては、県が定める要領にしたがうこと。

 以上のうち、特に重要なのは、2つ目です。すなわち、権利の共有者である民間企業が自ら共同出願特許の内容を業として実施する場合であっても、県の同意と県への実施料相当額の支払いが必要であることを、事前に合意しておかなければなりません。
 そもそも、特許法第73条第2項では、「特許権が共有に係るときは、各共有者は、契約で別段の定めをした場合を除き、他の共有者の同意を得ないでその特許発明の実施をすることができる」と規定しています。
 つまり、特許法上は、共有者の自己実施は、他の共有者の意思に関係なく(当然無償で)自由に行えるのが原則です。
 にもかかわらず、県と民間企業とが共有する特許において、共有者である民間企業が自己実施する場合は、同条第2項にあるとおり「契約で別段の定め」をして、つまりは実施契約を締結し、県に対して実施料相当額を支払わなければならないとするのはなぜでしょうか。
 民間企業相互で共有する特許においては、いずれもが自己実施により利益をあげることができます。
 一方、県と民間企業とで共有する特許においては、民間企業のみが自己実施により利益をあげることとなりますが、県が公金を共同研究に投資した分、民間企業は効率的な研究をすることが可能となり、その成果として特許を取得できていますので、応分の負担(=実施料相当額)を求める必要があります。
 この県への負担については、共有者である民間企業と十分に協議を行い、その理解を得て、負担方法や負担額等について了解してもらう必要があります。
 せっかく県と民間企業とが協力して産み出した新技術を巡って、お互いの信頼関係を損なう事態を招かないように、共有特許の取り扱いについては、共同研究に取り組む時点から契約等により合意しておきましょう。
 正しい共同研究契約により、お互い納得・安心・協力して共同研究し、正しい共同出願契約により、お互い納得・安心・協力して共同出願したうえで、適法適正な実施許諾等・譲渡に努めましょう。

県有特許業務マニュアル
~県有特許の適法適正な管理を目指して~

  1. 特許制度と本県職務発明制度の概要
  2. 本県職務発明制度と県有特許の取り扱い
  3. 県有特許の実施許諾等と譲渡
  4. 県有特許権の消滅
  5. 関係法令