3.県有特許の実施許諾等と譲渡(譲渡編)

2016年08月26日 | コンテンツ番号 1395

ここでは、県有特許の譲渡について、その手続きや注意点などを説明します。

前編では、将来、適法適正な譲渡ができるよう、研究開発段階や特許出願段階で注意しておくべき事項を説明しましたが、ここでは、譲渡の事務のあり方について具体的に説明します。

県有特許の譲渡

譲渡できる場合

これまで秋田県では、目に見える形で県有特許を社会還元する手法としては、実施許諾等しかありませんでした。しかし、産業振興・企業支援という県有特許の本来目的に鑑み、県有特許ひとつひとつを検証してみると、「所有者=県」「利用者=民間企業」という”実施許諾等”より、特許そのものを民間企業に移転する”譲渡”のほうが適切な場合があります。

また、県有特許の実施許諾等が浸透するにつれて、民間企業が実施許諾等より譲渡を希望するケースも出始めたことから、秋田県では、新たに県有特許を民間企業に譲渡する仕組みを整備し(県有特許権等譲渡要領)、実施許諾等と譲渡の両輪によって県有特許の社会還元を促進していくこととしました。

実施許諾等編で述べたとおり、公金を原資として産み出された県有特許はすなわち県民の財産ですから、県有特許の譲渡は、第1に本県の産業振興等を目的とする必要があります。さらに、譲渡とは特許そのものを特定の者に譲り渡すことですから、その是非については実施許諾等以上に公正明瞭な観点が求められます。

したがって、県有特許権等譲渡要領第2条第2項に定めるとおり、原則として、県有特許は「県内産業の振興等」のため譲渡できることとし、かつ、第3条によって譲渡できる場合を具体的に定めています。

画像 : 出願形態別の譲渡の適否表

県単独出願特許

前編、実施許諾等編で述べたとおり、県単独出願特許とは、公設試験研究機関が単独で研究開発を行った場合の成果です。すなわち、研究開発の段階では特定の民間企業を想定しているわけではなく、本県産業全体の振興を図るための研究開発として取り組んでいるものですから、その成果たる県単独出願特許もまた、広く県内企業全般を視野に入れたものとなります。

一方で、県単独出願特許を民間企業に実施許諾している場合で、当該企業以外に実施許諾を希望する民間企業が見当たらない場合は、事実上、当該企業のための特許という性格が強くなってきます。

したがって、秋田県では、県単独出願特許については、実施許諾中のものは実施許諾の相手方に対して譲渡することができるとする一方、実施許諾中でない特許権については「必要がある場合」、実施許諾中でない特許を受ける権利については「特別の必要がある場合」に限って、譲渡することができるとしています(県有特許権等譲渡要領第3条)。

特に、実施許諾中でない特許を受ける権利については、法律上不確定な権利であること、後に複数の民間企業が実施許諾を希望する場合が想定されることなどから、まずは実施許諾の可能性について十分に検討してください。

共同出願特許

前編、実施許諾等編で述べたとおり、共同出願特許とは、公設試験研究機関と特定の民間企業とが共同で研究開発を行った場合の成果です。すなわち、研究開発の段階から特定企業をターゲットとし、その企業の競争力を強化するための研究開発として取り組んでいるものですから、その成果たる共同出願特許もまた、特定企業のために活用されてしかるべきものとなります。

したがって、秋田県では、原則として実施許諾等の有無に関係なく、共有者に県の持分全部を譲渡することができるとしています。

また、実施許諾等中でない特許を受ける権利については、まずは実施許諾等の可能性を検討することになりますが、特許の内容などを検討した結果、譲渡が相応しいと判断でき、かつ、共有者が希望する場合は、実施許諾等ではなく譲渡を選択することも可能です。

特許法第73条

表4に示すとおり、県単独出願特許より共同出願特許のほうが、譲渡できる場合が広く認められていますが、これは、それぞれが有する目的の違いだけでなく、特許法の規定によるためです。

特許法第73条第1項及び第3項では、特許権が共有に係る場合は、各共有者は他の共有者の同意を得なければ、持分を譲渡したり実施許諾することはできない旨定めています。

ここで、秋田県と民間企業A社とで共有する共同出願特許があるとします。そして、秋田県としては当該特許を幅広く県内企業のために活用していきたいため、B社とC社に実施許諾したいと考えた場合、共有者であるA社はいかに考えるでしょうか。

A社とB社及びC社が業種業態を異にする企業であれば、A社の同意も得られそうですが、お互い同業者でありライバル関係にある場合は、A社が同意することはほとんどないといってよいでしょう。

つまり、共同出願特許である以上、その実施許諾等や譲渡の相手方は、事実上、A社かA社が指定する企業に限られることになります。共同出願特許とは、県の考えはともかくとして、共有者である特定企業の意向を配慮せざるを得ないのです。

したがって、共同出願特許は、その目的から考えても、また、特許法の規定から考えても、共有者以外の第3者に対する特段の配慮を要しないため、県単独出願特許より広範に譲渡の道を開くことができます。

譲渡の推進

県有特許の実施許諾等とは、あくまでも権利の所有者が県であることから、例えば、特許権の場合、権利維持のため必要となる特許料は、当然県が負担していくことになります。また、実施許諾等の都度、職員が実施許諾等の相手方と折衝したり職務発明審査会を開催したりと、様々な管理コストも発生します。

他方、県有特許の譲渡とは、権利の所有者が譲渡の相手方になりますので、例えば、特許権の場合、権利維持のため必要となる特許料は、当然譲渡の相手方が負担していくことになりますし、1回の事務処理で「社会還元」という県有特許の目的を達成することができます。

このようなことから秋田県では、秋田県知的財産活動推進指針中の「ステージごとの対応の実践」に示しているとおり、特に共同出願特許について共有者に対する譲渡を積極的に推進していくこととしております。

各課において、現在民間企業と共有している特許がある場合は、共有者に譲り受けの意思があるかどうかを確認するなど、譲渡の推進に努めるようお願いします。

譲渡事務の流れ

県有特許の譲渡事務の流れをまとめると、図8のとおりです。

第1段階は、譲渡を希望する民間企業が譲渡申込書を提出するまでの段階、第2段階は、譲渡申込書を受理した公設試験研究機関等が所管課に副申(進達)し、それを受けて所管課が学術振興課に職務発明審査会の開催を依頼する段階です。また、第3段階は、学術振興課において職務発明審査会を開催し、審査結果を所管課に通知する段階、第4段階は、職務発明審査会の結果を受けて実際に民間企業に譲渡する段階、第5段階は、譲渡した後、公設試験研究機関等に対して通知する段階です。

売買契約書を締結し譲渡した後は、秋田県財務規則第339条の4の規定により、出納局長に報告することも必要です。

くわしくは、管財課監修・秋田県財務協会発行の「公有財産事務の手引き」と、「県有特許権等譲渡要領」を合わせてご覧ください。

なお、第1段階にある事前協議は、特に上記要領で定められているものではありませんが、譲渡事務を円滑に進めるためには不可欠の作業となります。

民間企業から正式な譲渡申込書を提出していただく前に、譲渡の内容について民間企業と十分協議をしてください。特に協議が必要な事項は、「譲渡価格」についてです。

画像 : 県有特許の譲渡事務の流れ

譲渡価格

県有特許を譲渡する場合の譲渡価格は、「県有特許権等譲渡要領」で定める「特許権等譲渡価格算定基準」に基づいて算定します。

譲渡価格=基本額×調整率(基準率×増減率)×1.08

基本額

基本額は、次の2つの方法によりそれぞれ算出します。

  1. 県における原価金額
  2. 譲渡の相手方における利益金額

「県における原価金額」とは、これまでに県が支払った出願費用、審査請求等費用、特許料等の合計額(弁理士等に対する報酬額を含む)です。つまり、譲渡しようとする特許を産み出すのに要したコストを譲渡価格とするもので、通常「原価法(※)」といわれる算出方法です。

「原価法」は、客観的な算出方法といえますが、特許そのものが有する価値の高低に関係なく譲渡価格が定められるという側面もあります。

※通常の原価法では、研究開発に要した費用も含めて計算しますが、研究者の人件費や研究設備に関する費用などはその積算が極めて困難であり、仮に積算できたとしてもその金額の客観性は低いものとなります。金額の客観性を保つこと、県が行う研究開発は基本的には行政サービスであることを考え、秋田県では、「権利化に要した費用=出願・権利維持コスト」を原価としています。

一方、「譲渡の相手方における利益金額」とは、譲渡の相手方がその特許の実施により産み出す利益額(キャッシュフロー)を算出し譲渡価格とするもので、通常「収益還元法」といわれる算出方法です。

特許そのものが有する価値をある程度反映した算出方法といえますが、譲渡の相手方が異なればその価格に高低が生じるという側面もあります。つまり、メリットデメリットが「原価法」とは逆になります。

そして、これら「原価法」と「収益還元法」それぞれを用いて基本額を2通り算出します。双方を併用することで互いのメリットデメリットを相殺させ、適切な譲渡価格を算定しようというわけです。

くわしい算出方法については、「県有特許権等譲渡要領」をご覧ください。

基準率

基準率は、調整率を算定する際の基本となる部分ですが、基本額(1)を適用した場合は100%とします。

一方、基本額(2)を適用した場合の基準率は25%とし、共有の特許を譲渡する場合はさらに県の持分割合を乗じて算出します。

譲渡の相手方である民間企業が県有特許を活用して事業を行い一定の利益を得たとき、その利益とは「特許」+「当該企業の自助努力(効率的な生産活動、積極的な営業活動など)」の結果といえます。そして、秋田県では、利益に対する特許の寄与率はおおむね25%であるという考え(25%ルール)を採用し、基準率を25%としています。

なお、譲渡する特許が譲渡の相手方である民間企業と共有である場合、利益に対する県有特許の寄与率とは、すなわち県側持分の寄与率となりますので、25%に県の持分割合を乗じて基準率を算出することになります。

増減率

基本額(1)、(2)ともに、増減率は、原則として、100%とします。したがって、通常は、調整率全体に対して影響を与えないパラメーターになりますが、基本額(1)を適用した場合で県内産業の振興等以外の目的で譲渡する場合は最大150%まで増加させることができます。

譲渡価格

基本額(1)を適用した場合の額(額Aとする)と、基本額(2)を適用した場合の額(額Bとする)両方を算出したうえで、譲渡価格は次のとおりとします。

  1. 額Bが額A以上の場合は、額B以上の額
  2. 額Bが額A未満の場合は、額A以上の額
  3. 額Bを算出できない特別の事情があると認めるときは、額A以上の額

簡単にいえば、県有特許が有する価値を適切に反映した譲渡価格とするため基本額(2)による価格を基本とする一方、基本額(1)による価格を最低基準とすることで少なくとも権利化に要したコスト相当分は回収できる譲渡価格、つまりは、産業振興の視点と県財政の視点双方からみて適切といえる譲渡価格を算出するということになります。

なお、「県有特許権等譲渡要領」では、実際のケースを想定して譲渡価格を算出している事例も掲載しておりますのでご活用ください。

譲渡価格の有償・無償

県有特許の譲渡は、例外なく適正な価格による有償譲渡となります。

譲渡を希望する民間企業との事前協議においては、このことについて十分ご留意願います。

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県有特許業務マニュアル

~県有特許の適法適正な管理を目指して~

  1. 特許制度と本県職務発明制度の概要
  2. 本県職務発明制度と県有特許の取り扱い
  3. 県有特許の実施許諾等と譲渡
    前編 実施許諾等編 譲渡編
  4. 県有特許権の消滅
  5. 関係法令