このたび提案いたしました議案の説明に先立ち、今月26日、職員が収賄の疑いで逮捕されたことについて、改めて、深くお詫び申し上げます。
 昨年8月に元職員が同様の事案で逮捕されたことを受け、全庁を挙げて再発防止に取り組んでいる中で、再びこのような事案が発生したことは、痛恨の極みであり、事実関係を確認の上、厳正に対処するとともに、こうした不正行為を根絶するよう、全職員が危機感を共有しながら、倫理保持に向けた取組を徹底し、県政に対する信頼回復に全力を尽くしてまいります。
はじめに、知事就任に当たり、一言ごあいさつ申し上げます。
 私は、今回の知事選挙において、県民の皆様のご支持をいただき、県政運営を担わせていただくことになりました。課せられた職責の重さを感じ、改めて身の引き締まる思いで、今、この場に立っております。
 私は、選挙期間を通じて、県内各地を巡り、「新しい時代の秋田を、共に創りましょう」と訴えてまいりました。行く先々において、あらゆる世代の方々が、想像を超える熱量で秋田の変革を願う姿に触れ、県民の皆様が、今回の選挙を契機として、秋田の未来を切り拓くための新たな一歩を踏み出そうとしていることを強く感じ、大変勇気づけられました。
 こうした県民一人ひとりの熱い思いと力を結集し、全力で県政運営に当たってまいりますので、議員各位におかれましては、格別のご協力とご指導を賜りますようお願い申し上げます。
 次に、今後の県政に向けて、私の所信を申し述べます。
 全国最速のペースで進行する人口減少や少子高齢化、伸び悩む賃金水準などの厳しい現実に直面する中、私たちは、これまでの閉塞感を打ち破り、秋田の再生に向けて力強く歩みを進めていかなければなりません。そのために、まずは地域社会全体が、立場や関係性を超え、様々な考え方を尊重できる寛容さを持つとともに、何事にも挑戦する姿勢を称賛し、応援していく気運を高めていくことが必要不可欠であると考えております。
 寛容な社会であればこそ、人々の率直な対話を通じて、課題解決のための斬新なアイデアが生まれます。挑戦を称賛し、応援する社会であればこそ、そのアイデアを実現するため積極果敢に挑む意欲と熱意が沸き起こります。こうした前向きな社会は、たとえ挑戦が失敗に終わったとしても、温かく励まし、そっと背中を押すことで、次なるアイデアと更なる挑戦を生み出していきます。
 私は、「寛容と挑戦」に満ちあふれ、日常生活のあらゆる場面において、偏りやしがらみのない「ニュートラルな秋田」を創り上げることを基本的な理念として掲げてまいります。
 こうした理念のもと、私が思い描く本県の将来像は、「日本一持続可能な県」であります。
 1980年に、国際NGOである国際自然保護連合が初めて提唱した「持続可能性」の概念は、その後、人類共通の普遍的な価値として全世界に浸透し、2015年には、国連総会において、2030年までに達成すべき持続可能な開発目標であるSDGsが採択されるに至りました。
 一方で、気候変動や新興感染症が地球規模で深刻化しているほか、世界的な人口増加や国際紛争に伴うエネルギー・食料危機とも相まって、世界全体は、これまでの想定を超える複合的な危機に直面しており、多くの自治体が、様々な政策分野において、「持続可能な経済・社会の構築」を中核的な理念として位置づけ、その実現に向けた取組を加速させております。
 こうした中、本県は、地熱や風力など多様な再生可能エネルギー源が賦存するとともに、広大な農地や森林に恵まれるなど、カーボンニュートラルやエネルギー・食料供給の面で、全国トップクラスの優位性を有しており、脱炭素社会に対応した高付加価値産業の成長や、環境負荷の少ないライフスタイルの確立など、持続可能性の理念を体現できるエリアとして、その価値をゆるぎないブランドへと高め、国内外に広くアピールしていくことが必要であると考えております。
 私は、全県に広がる持続可能性の基盤を本県の強みとして余すところなく活用し、都市部と農村部の隔てなく、その恵沢を県民の豊かさと幸せに還元しながら、本県が抱える様々な課題の克服と、本県の持続的な発展につなげてまいります。
 こうした県政運営の基本的な考え方を踏まえ、重点的に取り組む施策の方向性について申し上げます。
 1点目は、「実効性のある人口減少対策の推進」であります。
 人口増減率、出生率など多くの人口関連指標について、本県は長らく全国最下位が続いております。特に、こうした指標に大きな影響を与える出生数の減少が著しく、地域社会の維持・存続が危ぶまれております。
 一方で、本県と同様に、地理的、自然的に不利な条件を抱える地域にあっても、様々な創意工夫により、若い世代の増加に向けた施策に一定の成果を上げている例が見られます。
 私は、本県の人口減少を、運命づけられた未来として諦めるのではなく、緊急的かつ大胆な施策を戦略的に講じることで少子化をくい止めながら、人口関連指標の改善を図ってまいります。
 このため、まずは15歳未満の年少人口の減少に歯止めをかけることを最重要課題として位置づけ、住環境の整備や、公務員を含む多様な職種への就業等に関する多方面からの移住支援メニューを充実させながら、首都圏等に在住する本県出身の子育て世帯のAターンを強力に促進するとともに、結婚・子育て支援や若い世代が主役となるまちづくり等に積極的に取り組み、若者の県外流出の抑制を図ることで、令和10年度までに人口の社会減少数を1,000人台まで縮減することを目指してまいります。
 こうした取組を通じて、若い世代に選ばれる秋田の実現を図りながら、出生数の減少を抑制するための道筋をつけてまいります。
 2点目は、「持続可能性を基盤とした稼ぐ力の向上」であります。
 カーボンニュートラルが世界的な潮流となる中、再生可能エネルギーの導入や森林再生など環境対策につながる投資の拡大は、二酸化炭素の排出削減と吸収量の増加のみならず、脱炭素関連産業における企業競争力の強化と雇用や賃金の増加等を通じて、地域経済全体の高付加価値化に大きく寄与しております。
 加えて、環境・社会・ガバナンスの観点から持続可能なビジネスを目指す取組であるESGに組み込まれることにより、企業価値を高め、取引の拡大や人材確保の円滑化、社員のモチベーションの向上等の効果をもたらすことが期待されております。
 全国に先駆けて洋上風力発電の導入が進む本県では、メンテナンス人材を育成する我が国最高レベルの訓練センターが開所したほか、日本海側最大の船揚場や、洋上風車に設置される荷役用クレーン等の製造工場が建設されるなど、沿岸部を中心に関連産業の集積が進んできております。
 こうした県内外からの資本投下を更に促進し、これまでにはなかった質と規模を有する雇用の創出に結び付けながら、県内への経済効果の最大化を図ってまいります。
 また、県民のエネルギー負担の軽減に向け、出力制御が行われている再生可能エネルギーに加え、バイオマス、小水力等の多様な未利用エネルギー源を地域で有効活用するための仕組みや、公共インフラの効率的な維持管理のあり方に関する研究と議論を深めるなど、県産エネルギーの地産地消と、小規模分散型のエネルギー循環社会の構築を実現するための取組を進めてまいります。
 さらに、再造林等の森林整備を支援するとともに、森林環境譲与税を活用し、県産木材の利用拡大等を促進することで、二酸化炭素の吸収・貯蔵効果を高めるほか、森林クレジットの販売拡大や女性・若者が働きやすい環境づくりに取り組むなど、林業所得の向上と林業従事者の確保・育成に向けた施策を推進してまいります。
 3点目は、「秋田の魅力の最大化」であります。
 四季折々に表情を変える雄大な自然、歴史情緒にあふれる街並み、洋上風車の立ち並ぶ近未来的な景観、古くから伝わる個性的な習俗や食文化など、本県は、他の地域にない際立った観光資源となり得る有形無形の資産を数多く有しております。
 一方で、延べ宿泊者数や観光消費額は、新型コロナウイルス感染症の収束後も伸び悩んでおり、観光誘客の拡大に向けたこれまでの取組が十分に功を奏しているとは言い難い状況にあります。
 このため、既存の観光資源の磨き上げに加え、広大かつ変化に富んだフィールドを満喫できるアウトドアアクティビティなど、非日常を求める観光客への訴求力の高いコンテンツづくりに力を入れるとともに、県内各地の隠れた名所や逸品を発掘し、高いレベルでのブランディングと、国内外に向けた戦略的なPRを行ってまいります。
 また、宿泊・交通分野におけるシェアリングエコノミーの普及やユニバーサルツーリズム等を推進し、旅行者の多様なニーズに応えられるストレスフリーな受入態勢を整備しながら、観光エリアとしての本県の魅力の最大化と、観光産業の収益力の向上を図ってまいります。
 さらに、県民が日常的に文化芸術やスポーツに親しむことができる環境づくりに加え、あきた芸術劇場ミルハス等の大規模施設を活用し、著名なアーティスト等による公演を誘致するとともに、県内のプロスポーツチームを、地域の誇りとして、全県一丸となって応援する気運の醸成を図りながら、文化芸術とスポーツの力を活用した賑わいの創出と、県内外からの誘客の拡大に取り組んでまいります。
 加えて、令和10年秋の供用開始を目指し、新県立体育館の整備を進めていくほか、新スタジアムの整備については、秋田市による調査・検討の状況を踏まえつつ、費用対効果等に関する県民への丁寧な説明を行いながら、支援のあり方を検討してまいります。
 4点目は、「県民の安全・安心の確保」であります。
 激甚化・頻発化する自然災害に備え、引き続き、河川整備や橋梁の耐震化等のハード対策を進めるほか、災害情報の収集・発信機能の充実・強化など既存のソフト対策に加え、一人ひとりが、気象情報等に注意を払いながら、被害防止に向けて事前に行動するための県民運動を展開するとともに、シャワーやベッド等の避難生活における良好な環境の確保に資する備蓄品の充実を図るなど、県民の生命・財産を守るための防災・減災対策を着実に講じてまいります。
 また、山間部や農村部のみならず、市街地においても大きな脅威となっているツキノワグマについては、先般行われた鳥獣保護管理法の一部改正により、人の日常生活圏に出没した場合の「緊急銃猟」が可能となることから、緊急時の迅速かつ適切な対応に向けた市町村等との連携体制を整備するとともに、出没の抑制を図るための取組を強化するなど、人身被害の防止を最優先とした総合的な対策を進めてまいります。
 さらに、自家用車等を用いて乗客を有償で運ぶライドシェアの導入など、新たな制度や技術を活用した利便性の高い「地域の足」の確保について研究を進めるとともに、増加の一途をたどる特殊詐欺被害について、SNSや新聞、テレビなど多様なメディアを活用し、詐欺の手口等に関する最新情報を県民に発信しながら、被害防止の気運を高めてまいります。
 5点目は、「心の通った医療・福祉の実現」であります。
 昨年12月に国が公表した令和4年の本県の健康寿命は、男女ともに、全国中位を維持しているものの、前回調査の対象である令和元年よりも短縮しております。健康寿命の延伸に向けた施策の成果が現れるには、一定の期間を要するものと認識しておりますが、県民が生きがいや豊かさを実感しながら生活できる健康長寿社会を早期に実現するため、運動習慣の定着や食生活の改善等に確実につながる実効性の高い健康づくり県民運動を展開するとともに、分煙環境の整備等を通じた受動喫煙防止対策を進めてまいります。
 また、全ての県民が、年齢や障害の有無等にかかわらず、住み慣れた地域で安心して質の高い医療・福祉サービスを将来にわたって受けることができるよう、市町村や関係団体、民間事業者との連携を強化しながら、医療・福祉人材の確保と偏在の是正、遠隔診療の普及など、地域包括ケアシステムの深化に向けた施策を講じてまいります。
 特に、今後も高齢単身世帯の増加が見込まれることから、市町村によるライフライン事業者等と連携した見守り体制の構築を支援するとともに、高齢者の孤立防止に向けたICTの効果的な活用方法等について研究してまいります。
 さらに、医療的ケア児者とその家族、自閉症スペクトラム障害がある人、生活困窮世帯の子どもなど、既存の公的サービスが必ずしも十分に行き届いていない方々への支援の充実を図ってまいります。
 近年、人口減少と少子高齢化が急速に進行し、地域コミュニティの機能や家族のあり方、疾病構造等が大きく変化する中で、個人が抱える困難は、一層複雑化・多様化しております。こうした方々を誰一人取り残すことのないよう、親身な対応に心がけながら、一人ひとりの不安や悩みに寄り添った支援に努めてまいります。
 6点目は、「日本の食を支える県づくり」であります。
 世界的な食料需要の増大や気候変動による生産量の減少等に伴い、近年、食料安全保障の重要性が一段と高まる中、本県の食料自給率は、長年、カロリーベースで全国第2位となっており、我が国の食料の安定供給に大きく貢献してきております。
 農業生産力の更なる向上に向け、引き続き、規模拡大や法人化による担い手の経営基盤の強化や、大規模生産拠点を核とした園芸・畜産の生産拡大、スマート技術の普及による省力化等を図るとともに、米の需給動向を見据えながら、戦略的な秋田米の生産・販売を推進してまいります。
 また、輸入穀物の価格上昇や農業労働力の減少等を見越し、省力化が図られる飼料用とうもろこしの栽培に挑戦する農家を支援するなど、長期的な視点に立った意欲的な取組を後押ししてまいります。
 さらに、海洋環境の変化に対応した収益性の高い魚種の種苗生産や蓄養殖技術の確立等に継続して取り組むとともに、洋上風力発電の導入に伴う漁業への影響を注視しつつ、発電事業者による共生策と連携した未来志向型の経営に取り組む漁業者を支援してまいります。
 加えて、本県の農業・漁業の持続的な発展を図るため、就業希望者への情報発信や各種研修制度を充実させるなど、新規就業者の確保・育成と定着に向けた施策を強化してまいります。
 7点目は、「個性と自主性を尊重した教育の推進」であります。 
 近年、脳や神経の違いに加え、それらに由来する個人レベルでの様々な特性の違いを多様性と捉えて尊重する「ニューロダイバーシティ」の概念が提唱されており、脳・神経科学や認知科学の発展とともに、発達障害の有無等にかかわらず、全ての人の個人差を科学的に理解する視点として関心が高まってきております。
 子どもは一人ひとり異なるという前提に立ち、高校の入学試験を含め、画一的な傾向が強い現在の教育制度について検証を行うとともに、全ての子どもが、自己肯定感を持ちながら、自発的に取り組み、自ら判断する意欲と能力を身に付けられるよう、自然体験やスポーツ活動等も通じた多様な学びの場を整えてまいります。
 また、幼児教育や保育に携わる方々の声を真摯に受け止めながら、施設運営の安定化や人材の確保・充実に向けた支援のあり方について、検討を進めてまいります。
 さらに、これからのデジタル社会を生き抜く力を育成するため、高校におけるデジタル教育を強化し、更なるスキルの向上を図るとともに、県内の大学生が本県の課題解決や地域活性化に向けて活躍できる環境づくりに取り組んでまいります。
 8点目は、「本県経済を支える中小企業等への支援」であります。
 県内企業の多くは、人口減少に伴う市場の縮小や人手不足、燃料・原材料価格の高騰への対応に苦慮しているほか、米国による相互関税措置や自動車等に対する追加関税措置の影響が懸念されるなど、厳しい経営環境に置かれております。
 こうした難局を乗り越えることができる強靱でしなやかな県内産業を構築するため、県内企業に対する低利融資や相談対応を継続するとともに、新分野への進出や業態転換、M&A等による経営規模の拡大、業務効率化に資するDXの導入など、生産性の向上に向けた意欲的な取組を支援してまいります。
 また、雇用創出の観点から一定の成果が現れている企業誘致については、IT関連産業など今後の大きな成長が見込まれる業種や、女性・若者に魅力的な職種を主要なターゲットに据えるなど、更なる質の向上を図るとともに、外国人材の受入れやスタートアップの創出・成長への支援等を強化し、本県経済の活性化を実現してまいります。
 さらに、こうした取組を通じて、県内産業の競争力の強化と賃金水準の向上を図り、魅力的な雇用の場を創出することで、秋田で働くことを強く動機づけ、Aターン就職者数の増加や若者の県外流出の抑制に結び付けてまいります。
 これらの方向性に基づいて施策を展開してまいりますが、私に課せられた最大の責務は、一つひとつの施策の成果を、県民が実感できる形で確実に積み上げていくことであると考えております。
 これまでの県政が、最重要課題である人口減少問題について、十分な成果を残すことができなかったのは、前例踏襲に陥り、固定観念にとらわれがちな行動様式、満足できない数値結果にも甘んじる姿勢など、県庁内における旧来的な組織文化にも大きな原因があるものと認識しております。
 私は、こうした県庁内の意識を、県職員との対話を重ねながら、施策の実施結果から目を背けずに、真正面から向き合い、あくまでも成果を出すことにこだわる「成果追求型」のマインドに改革してまいります。
 また、限られた行政資源を効果的・効率的に活用し、確かな成果につなげていくためには、本県の強みと弱みを踏まえたターゲットの明確化や、ニーズに合致する取組内容の検討・選択、ターゲットに確実に届くプロモーションを一連のプロセスとして理論的に展開し、行動変容を引き起こす「マーケティング」の手法を取り入れることにより、施策の解像度を上げ、精度を高めていく必要があると考えております。
 このため、まずはこうした手法により着実に成果を上げている自治体の取組を参考としながら、県庁内へのマーケティング専門組織の設置について、検討を進めてまいります。
 私は、人口減少と地域の衰退という「県民共通の敵」に向かって、本県の有するあらゆる資源を総動員し、今こそ反転攻勢に出る時であると確信しております。これまでの施策について、虚心坦懐に検証を行い、継続すべきものは継続し、改めるべきものは、その内容や手法を大胆に刷新するとともに、県議会をはじめ、市町村や県民の皆様の多様なご意見に耳を傾け、共に手を携えながら、新しい時代の新しい秋田を切り拓いてまいりますので、ご理解を賜りますようお願い申し上げます。
 次に、提出議案について説明申し上げます。
「秋田県副知事の選任について」は、副知事に、前副知事の神部秀行氏、総務部長の谷剛史氏を選任いたしたく、議会のご同意をお願いしようとするものであります。
 よろしくご審議の上、ご可決賜りますようお願い申し上げます。