4月3日(月) 県正庁 

 令和5年度、2023年度のスタートにあたり、一言皆さんにお話しをさせていただきます。
 今年度は、私にとって知事として15年目の年、現任期の折り返し点であります。仕事の話は、部局ごとの細々としたことは抜きにし、後半のほうで秋田県の将来を方向づける基本的な政策方針を話させていただきますが、冒頭で少し自分自身のことについて述べさせていただきます。
 昨年末には後期高齢者の仲間入りをし、かつての脳疾患の後遺症の顔面の痙縮が強まって、言葉の発しにくさもあり、大変にご迷惑おかけし、申し訳なく思っております。
 しかし、定期健診では内臓的には特に問題がなく、常に食欲旺盛で、たまのゴルフは若い人と同じレギュラーティーで回る体力はあるつもりで、叩きすぎで同伴者に迷惑をかけるようになるまでは、高齢者用のシルバーティーには移らないつもりです。
 特に胃腸が強く、海外出張では若い人に負けないくらいに、相当に無理が利くことは、同行した方はよくお分かりと思います。
 多くの課題を持つ秋田県行政は、一時の停滞も許されず、先送りできない課題ばかりで、私も残りの2年間は、いろいろと言われることが多いと思いますが、全力を尽くしていくつもりで、それが信任を得た県民への義務であると思っております。しかし、私が幾ら勇んでも一人では仕事はできません。職員の皆さんの知識と知恵、情報と分析、行動と説得などがあって初めて県組織が回っていきますので、よろしくご理解とご協力をお願いいたします。
 私自身に対し、よくSNSなどで、じじいは引っ込めとか、DXなど分かるはずがないとか、パソコン使えないだろうとか、無知無能の知事のような書き込みを目にすることがあります。しかし、若ければ何でも分かるのかということではないでしょう。そういう意味で、議会対応や各種団体等の対応に際しては、かつて学んだ多様な学問も思い出し、最新の知識や情報を得るため、時間の許す限り学習していますし、特に必要な場合には、高度な論文や各種の情報にも目を通しながら、物事の本質と真理、原理原則、さらには海外出張の際の国際的な情報を得るように努力し、県政に臨んでいるつもりです。
 かつて、アメリカネバタ州の法人税を例に、県の法人関係税の減免による企業振興の質問があった際に、税務課作成の答弁が曖昧なことから、私自身、ネバタ州の税法をネットで調べ、結局、日本とはシステムが異なることを答弁内容に追加し、質問した議員に納得していただいたことがあります。
 また、米づくり偏重では、ますます秋田県農業は貧乏になるという趣旨の発言をしたことがありますが、秋田の米づくり農家の心情を無視しているとか、他県の米の生産状況との僅かの違いを捉えて、知事の言うことは正確でないという人もいました。しかし、この種の議論は、根底条件が異なる場合、あくまでも統計学的要素での傾向値を捉えて議論すべきもので、結局は現時点で望ましい姿までにはまだ至っていないものの、本県農業の方向性にあるべき姿を与えたのは確かではないかと思っております。
 よく最近、エビデンスに基づく施策事業という言葉を議会の質疑で耳にしますが、エビデンスも捉える方向や基礎データの特質により大分変わるものであります。複層的な社会構造の中では、マルチ、クロスという視点でエビデンスの副次的な解析も必要であります。
 私が庁内での施策事業の議論をする際に、原理原則論や各種の学問的分析の必要性を言うことから、職員の皆さんには大変にご苦労をおかけしましたが、最近の職員の皆さんからあがってくる様々な分析は、10年前とは比べもののないくらいに向上しております。特に、高度な学習を経て、高い知識を身につけた若い職員の能力には感心させられるものがありますので、これからの県行政を担う若手職員には、仕事の面で前例踏襲ではなく、一層活躍する新しい場面を大いに作っていただきたいと思います。
 さて、ここで本県の行く末を左右する幾つかの政策展開の方向性について述べさせていただきます。
今、我が国は極めて脆弱、ひ弱な社会になりつつあります。食糧、エネルギーの多くを海外に頼ってきましたが、経済力が減退してきた現在、豊富な外貨にものを言わせて思いどおりに輸入できる状態ではなくなりました。そして、地震国で台風など災害に弱い国土形質でもあり、地球温暖化による影響をもろに受けやすいのが日本の姿です。さらには、あってはほしくないことでありますが、万が一、台湾海峡で有事勃発となれば、直ちに沖縄、西日本を中心に防衛環境が激変し、加えてシーレーンの強制閉鎖により、多くの食料、エネルギー源の輸入はストップし、たちまち国民生活は大混乱に陥ります。
 違った課題では、女性の社会進出、女性の地位向上が世界の潮流から日本が取り残されている要因でもあり、デジタル化の遅れもしかりであります。このような中で、何となく閉塞感が漂い、これが少子化、人口減少の要因にもなっているのでないかと思います。
 その上で、くどくは言いませんが、この2年間、様々な議論はあるでしょうが、各方面のためにする話はあまり気にせず、次のことを強力に推し進めたいと思い、職員の皆さんの知恵と知識、汗と足をぜひ貸していただくことを希望します。
 まず最も必要な食糧資源として、農畜産業や水産業のさらなる振興です。複合化、法人化、農地整備の促進、中山間地の効果的な対策、海洋環境の変化に伴う養殖漁業の振興などであります。加えて、私は近い将来、もしかして起こるかもしれない日本周辺の有事に備え、主食でカロリー源の根底である米の増産への急転換という、現在とは真逆の事態も、ある程度想定しておくことも必要ではないかと思います。
次に、日本有数のグリーンエネルギー県になることです。特に洋上風力と、それに派生する水産産業なども含め、県内への経済効果の最大化を図りながら、思い切って進めることが必要であり、同時に、木材産業の振興とも相まって、二酸化炭素吸収源として山の再造林を重点的に進めることが必要です。
 同時に、隗より始めよ、私たちの生活全般においてもグリーン化への必要性は当然で、なお一層、そのための施策や県民理解に力を尽くすことが必要です。
 さらに、本県社会全体での女性活躍の場づくりと、我々も含め、県民意識の醸成に力を尽くすことが不可欠であります。海外に行くたびに、海外の女性のはつらつとした女性の仕事ぶりに感心させられ、それがその国の発展の大きなエネルギーとなっていることを感じる次第です。
 時代をけん引するデジタル化の進展、県民の命と暮らしを守る県土の強靭化、人口減少社会における医療体系の再編整備、バランスがとれ、取り残される人がいない福祉政策、そして産業社会を支え住民の利便性を保つ交通体系の整備はもちろんのことであります。
 また、根本的な課題として、これまで述べた多くの課題は県経済の活力増強に大きくリンクしており、企業誘致も含め、成長産業の振興、中核企業の振興、後継者不足の中の中小企業のM&Aなどによる産業構造の強靭化と賃金上昇は、欠かせないことです。加えて、労働力不足の中、よりデジタル化、自動化が進む一方で、産業構造の変化に対応し、学び直し、リスキリングによる効果的な職種間の人材移動も必要であり、教育の場において基礎教育をしっかりと行いつつ、産業構造や価値観に対する変化に対応した教育の変革も必要なことと思います。
 最後に、人口減少対策、すなわち少子化対策と子育て支援対策とは次元が異なるという説が最近主流になってまいりました。結婚に至れば一定の子どもをもつ状況の中で、強制はできませんが、結婚できる経済状態や環境の整備がより重要ということになります。もちろん結婚しても経済的な側面からの子育て支援策と切り離すことはできませんが、まずは県内における男女比の均衡を保つことが最大の課題ではないかと考え、若い女性の県内定着・回帰のため、産業経済面での女性の待遇改善や多様な職種の創出、地方都市の楽しみの場づくり、地域の女性に対する息苦しさの環境の打破などに全力を尽くしていく必要があると考えております。幸い、今後政府により子育て支援策は手厚くなる方向にあるので、県としては女性の定着・回帰によりエネルギーを費やすことができる状態になります。
 一方で、現在の苦しい国民生活や経済環境を踏まえ、緊急措置としての一定の直接の金銭的給付事業も当然に必要ではありますが、特に将来の日本や地域を背負う若者方を中心に指摘があるように、今がよければということで、将来世代に役に立つ建設的な事業でない金銭的給付事業のために国債を際限なく増発し、また、地方が乏しい一般財源を多く費やすことは、結局、将来の若者に大増税というツケを残し、これが若者の将来不安につながり、結婚し、子どもをもつことに不安を感ずる一因という声にも真摯に耳を傾け、必要なものをしっかりと選別しつつ、何もかにもという要望に対し、抗することも日本全体の政治行政に携わる者として自覚が必要ではないかと思います。
 いずれにしても、一世紀に一度というパラダイムシフトの時代、また日本という国が活力を失いつつある時代における地方行政の運営は容易なことではありません。このような中で、まずは何もない県という意識を捨て、少しばかり虚勢を張ってでも日本一魅力ある県という自信を持つことが前進につながるのではないでしょうか。
 職員の皆さんには、このような周辺環境を十分に理解した上で、県民の方々に自信を持っていただけるよう、明るい顔で接しながら、風通しのよい職場づくり、特定の人間に過重な負担をかけないような管理監督とチームワークの仕事、パワハラ、セクハラなど県民のひんしゅくを買うような行為に十分に留意し、極めて厳しい中でも秋田県を前に進め、老若男女、多くの県民に希望を抱かせるよう仕事を進めていただくことを期待し、年度始めの挨拶にいたします。
 皆さん何とぞよろしくお願いいたします。ありがとうございました。