目的

我々は比内地鶏の父親である比内鶏のZ染色体上のマイクロサテライトDNAマーカーを用いた比内地鶏の識別手法を開発した(2007年日本家禽学会春季大会)。この方法は比内鶏のZ染色体上に固定した対立遺伝子を示すいくつかのマイクロサテライトDNAマーカーの遺伝子型を調査する方法である。この技術の開発によって、比内地鶏と他の鶏をDNAで識別することが可能となった。今回、我々はこの識別手法の実用化を図るため、識別に有効と思われる5つのマイクロサテライトDNAマーカーを用いてマルチプレックスPCR法による比内地鶏のDNA識別手法の開発を試みた。さらに比内地鶏の各部位、加工品、市場に流通するその他の肉用鶏について識別を行った。

方法

実験1: 既報の条件でPCRを行った場合、PCR産物がうまく増幅しないマーカーもあるので、全てのマーカーのPCR産物が増幅するようにPCRの条件を設計し直した。再設計したPCR条件によって、5つのマイクロサテライトDNAマーカーをマルチプレックスPCRによって1チューブで増幅した。その増幅産物をDNA自動シーケンサーでキャピラリー電気泳動を行い、比内地鶏の遺伝子型を判定した。
実験2:実験1で設計し直したマルチプレックスPCR法によって、比内地鶏の各部位(もも 肉、むね肉、ささみ、心臓、肝臓、砂肝、脾臓、首肉、手羽中、手羽先、ぼんじり、つなぎ(心臓上部)、軟骨、皮、脂)、加工品(ガラスープ、くんせい、みそ漬け、しお漬け、しょうゆ漬け、ソーセージ)計78検体さらに市場に流通する他の肉用鶏(ブロイラー(95)、銘柄鶏6種類(44)、地鶏36種類(202))計341検体について識別を行った。

結果

実験1:PCRの条件を設計し直すことによって、1チューブで5つのマーカーのPCR産物を増幅させることができた。得られた比内地鶏の遺伝子型は我々の結果(2007年日本家禽学会春季大会)と一致していた。
実験2:比内地鶏の各部位及び加工品について識別を行った結果、全てのサンプルが比内地鶏の遺伝子型と一致し、矛盾も認められなかった。次に市場に流通する他の肉用鶏について識別を行った結果、95.9%識別することができた。ブロイラー、銘柄鶏では識別率が100%、地鶏では92.4%であった。性別では、雄が94.1%、雌が99.0%であった。比内地鶏は市場流通のほとんどが雌であること、偽装には地鶏ではなく市場価格が安いブロイラー等の鶏肉が混入されるケースが多いことから、5つのマーカーで識別が十分可能であり、本識別手法の有効性が示された。以上の結果から、マルチプレックスPCR法による効率的な比内地鶏の識別手法が確立された。