八郎湖に係る湖沼水質保全計画では、湖内浄化対策のひとつとして、中央干拓地からの排水の水質浄化を目的として、大潟村方上地区でヨシ等を利用した自然浄化施設を整備することとして、現在、自然浄化試験施設において実証試験を行っている。
試験施設の設計に当たっては、「植生浄化施設計画の技術資料(平成14年12月)注1」(以下、技術資料という)を参考にしたが、以下の整理に当たっては、同技術資料の2007年版を引用した。

1 浄化方式の選定

植生浄化法は、施設の特徴から下図のとおり分類され、日本では湿地法の表面流れ方式や表面流れビオトープ方式が多く導入されている。

フローチャート:植生浄化分類
植生浄化方式の分類(技術資料より)
  • 植生浄化法
    • 湿地法
      • ①表面流れ方式
      • ②表面流れビオトープ方式
      • ③浸透流れ方式
    • 浮漂植物法
      • ④処理槽方式
      • ⑤水面利用方式
    • 水耕法
      • ⑥直接植栽方式
      • ⑦特殊基材方式
      • ⑧浮体方式

植生浄化方式の選定に当たっては、

  1. 施設の目的
  2. 処理対象水の性質
  3. 用地の制限
  4. 建設コスト及び運転・維持管理コスト等

を考慮して選定する必要がある。

八郎湖においては、1. 大潟村中央幹線排水路からの排水の負荷削減が目的であること、2. 当該排水はSS成分が多く、南北2箇所の排水機場のうち南部排水機場の窒素・リン濃度が高いこと、3. 南部排水機場に隣接して広大な未利用地があり、全国でも利用事例の多いヨシが自生していることなどから、一般的な「湿地法の表面流れ方式」を採用することとした。

2 植物の選定

植生浄化に利用する植物は、原則、在来種を用いることとし、浄化方式、植物の生長特性(窒素・リンの現存量、吸収速度)、浄化以外の目的(ビオトープ、景観等)及び地域特性等を考慮して選定する。特定外来生物は用いてはならない。その他の外来種についても繁殖面積が拡大する種は原則的には用いるべきではない。
 湿地法ではヨシ等の抽水植物が用いられ、植物の効果として、栄養塩吸収、水中部の茎による接触沈殿、水中の茎部に付着した微生物による有機物の分解、窒素の硝化・脱窒作用の促進が期待できるほか、基材が土壌の場合には芽吹きによる浸透性の維持回復効果がある。
 植物の除去(収穫等)により窒素・リンの浄化を考える場合、窒素・リンの現存量や吸収速度の季節変化を考慮して除去(収穫等)の時期や頻度を決める必要がある。特に、ヨシについては、生長期(春期~秋期)に地上部に蓄積された窒素・リンが枯死期(冬期)には地下茎と根に移行するという特性も考慮する必要がある。
 一方、植物の除去(収穫等)による浄化を主とせず、通年の浄化効果を期待する場合は、湿地法では立ち枯れ後も組織が硬く容易に腐敗しないヨシが望ましく、水耕法では越冬可能な植物が有利である。

大潟村方上地区の未利用地には、湿地法で有利とされるヨシなどが自生しており、これを利用することにより施設の整備に当たってコストの低減が期待できる。

3 植生浄化の浄化機構

植生浄化の浄化機構を分類すると、沈殿効果、土壌の効果、植生の効果に大別される。一方、負の効果としては土壌や植物から系への回帰が考えられる。

(1)沈殿効果

植生浄化方式共通の浄化効果として、懸濁成分の沈殿が挙げられ、懸濁成分の多い流入水の場合には主要な浄化効果となる。沈殿効果の季節変化は小さい。

(2)土壌の効果(吸着、硝化・脱窒等)

ほとんどの植生浄化方式の植生基材として用いられる土壌には、リンの吸着効果がある。また、土壌(砂礫も含む)には微生物の作用による窒素の硝化・脱窒効果がある。これらは、無機態成分の多い流入水の場合には主要な浄化効果であり、土壌を用いた浸透流れ方式では、これらの効果がより促進される。また、浸透流れ方式の場合は土壌等の植生基材によるろ過効果がある。

(3)植物の効果(吸収、接触沈殿・ろ過、硝化・脱窒の促進等)

植物体による栄養塩の吸収の他に、植生の存在による接触沈殿・ろ過効果、付着した微生物の生物反応による分解効果及び地下部への酸素供給による硝化・脱窒の促進がある。技術資料では、ヨシ等の抽水植物のように、懸濁物質が主に茎との接触後に沈殿する場合を「接触沈殿」、オオフサモ等の広義の抽水植物のように、懸濁物質が水中に密に繁茂した根茎により捕捉される場合を「ろ過」としている。

(4)負の効果(土壌や植物からの回帰)

稼動初期の休耕田土壌、腐敗した植物や内部生産物等の堆積物、嫌気化した底泥等からの栄養塩の溶出や懸濁物質の遊離・浮上による系への回帰があり、植生浄化施設全体としての浄化効果はこれら負の効果を差し引いたものになる。なお、技術資料では、懸濁物質(流入及び内部生産)と植物枯死体の一部を「底泥」としている。

画像:植生浄化機構図
浄化機構の概念図(技術資料より)

4 湿地法の表面流れ方式で期待される浄化効果

湿地法の表面流れ方式の浄化機構のうち、窒素・リンの浄化については、植物の吸収効果は小さく、窒素は脱窒と底泥蓄積、リンは底泥・土壌蓄積(吸着が卓越)が主な浄化効果である。また、有機物の浄化については、付着微生物による分解も重要な効果として挙げられる。
茨城県山王川の実験(表面流れ方式、ヨシ・マコモ)では、窒素・リンの負荷量収支における主な浄化効果は、窒素については脱窒と底泥・土壌蓄積(合計20%程度)、リンについては底泥・土壌蓄積(吸着が卓越、30%程度)である。また、窒素、リンともに植物吸収は小さい(1%~3%)

画像:ヨシの栄養塩の負荷量収支図
茨城県山王川地区の実験におけるヨシの栄養塩の負荷量収支(技術資料より)

休耕田などの土壌の場合はCOD成分やリンの溶出、底泥が蓄積した施設では土壌の嫌気化により栄養塩の溶出、植物の腐敗や内部生産した微生物や植物プランクトンの流出も考えられ、場合によってはこれらの量が底泥蓄積などの除去率を上回るために、マイナスの除去率となることもある。このため、植物や底泥の維持管理、流量管理などが必要となる。

5 方上地区自然浄化試験の概要

方上地区での実証試験では、将来、施設整備を予定する現地フィールドに実際に導水して、上記の浄化効果の継続的な発現状況を確認するとともに、ヨシの維持管理方法を検討することを目的とし、以下の施設構造とした。

(1)区画の形状

全国事例では長辺長(流下距離)が20~1000mまで様々であるが、20~100mが適切としており、100m以上ではCODやリン成分が増える報告もある。短辺長(横幅)は縦横比で10:1が適当としているが、流入地点との関係で止水域の発生や短絡に留意する必要がある。方上地区では、茨城県山王川地区(30m)の事例を参考に長辺長50mを採用、短辺長は流入口1箇所として7mとした。

(2)水深

表面流れ方式の全国事例では10cmが多く、30cm以下が適切としている。方上地区では整地コストを押さえるため、現地形のまま未整地状態で導水することも視野に入れることから20cmを採用した。

(3)導水条件

初年度は、最適導水条件を探るために水深を20cmに固定し、水面積負荷0.1~0.8m3/m2/日、滞留時間6~48hrとした。(試験開始後に最低水面積負荷は0.07m3/m2/日、滞留時間は72hrに変更)

(4)沈砂槽

流入水に懸濁成分が多いことから、水中ポンプ~沈砂槽~分水槽を経て試験区画に導水する。

(5)使用する土壌

ヨシが自生する現地土壌をそのまま使用する。但し、現地地盤は干拓当時から手つかずのため、部分的に当時の排水溝が残るなど均平状態にない。このため、現状のままの区画と簡易整地を施す区画で比較することとする。

試験の実施状況、平成20年度試験結果等は、下の関連情報を確認して下さい。

(注1)

  • 植生浄化施設計画の技術資料(平成14年12月)(ISSN-1347-751X 河川環境総合研究所資料第5号)
  • 植生浄化施設計画の技術資料[2007年版](平成19年12月)(ISSN-1347-751X 河川環境総合研究所資料第26号)