令和6年4月1日(月) 県正庁
 
 今日は、4月1日、月曜日、ちょうど区切りがよく令和6年度、2024年度がスタートしました。
 今年度は、私にとって知事として16年目の年です。実質、現任期の最後の年で、また、当然、知事の職としても最後の年度となります。
 思えば、県職員として25年間、秋田市長として2期8年弱、そしてこのまま無事に任期を終えれば4期16年間、半世紀にも及ぶ地方自治行政に携わることになります。
 今でも好奇心が人一倍強く、物理学や数学が好きで、仕事の合間には若い時代に学んだ航空工学などの専門分野の書物に目を通しながら、重ねた年齢をカバーしようと、いわば年寄りの冷や水といったみたいなことをしておりますが、後期高齢者の仲間入りをしてから1年半です。ゴルフの方はめっきり飛ばなくなって、年を感じてがっかりします。
 しかし、かつての脳疾患の後遺症の顔面の麻痺が強まって、滑舌が悪くて皆さんにご迷惑をおかけしていますが、食欲は旺盛で、出張続きや海外出張でも、たくさん食べてさえいれば疲れを感じることがなく、定期検診でも今のところ目立った異常がありませんので、最後の1年しっかりと頑張っていくつもりでこの場に立っております。
 さて、多くの課題を持つ本県行政は、一時の停滞も許されず、先送りできない課題ばかりです。
 思うに任せないことが多く、なかなか成果に結びつかない施策事業が多いのですが、次の代にしっかりと引き継げるよう、職員の皆さんと共にこの1年間全力を尽くしていきたいと思いますので、皆さんにはよろしくご理解とご協力をお願いします。
 さて、かつて「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われた我が国は、現在では極めて脆弱、ひ弱な国家になりつつあります。さらに、このような時期に国政も混乱状態で、大事な時期の国政の混乱を憂える声も増しております。
 食料・エネルギーの多くを海外に頼ってきましたが、経済力が減退し、また、過度な円安が続く状況下で、かつての豊富な外貨に物を言わせて思い通りに何でも輸入できる状態ではなくなり、国民生活は賃金上昇幅よりも各種の物価水準が上昇し、大変苦しい状況が続いております。
 さらには、良きにつけ悪しきにつけ世界経済を牽引してきた中国経済が深刻な状況に陥る中、今後のアメリカ大統領選挙の結果如何では世界経済の中枢のアメリカの保護主義的な傾向が強まることが懸念され、また、ロシアのウクライナ侵攻による様々な面へのさらなる影響も危惧されております。
 また、円安基調が続く中、石油燃料の多くを依存する中東情勢如何では、現状ではエネルギーばかりか多くの工業材料としての原油価格が不安定になり、その調達すら危うくなるほか、グローバルサウスと言われる新興国の経済発展による世界の経済秩序への大きな影響も想定せざるを得ない状況にあります。
 そして、あってはほしくないことではありますが、中国の覇権主義的方針の下、台湾海峡や南シナ海での有事勃発となれば、直ちに沖縄、西日本を中心に防衛環境が激変し、加えてシーレーンの強制閉鎖により、多くの食料・エネルギー資源の輸入はストップし、たちまち国民生活は大混乱に陥ります。
 違った課題では、女性の社会進出、女性の地位向上が世界の潮流から日本が取り残されている要因もあり、あらゆる面で基幹インフラになりつつあるデジタル技術の社会実装への遅れも然りであります。
 また、一昨年、昨年とも本県においても大水害に見舞われましたが、近年は世界的に地球温暖化に伴う異常気象による大規模災害が頻発し、さらには元日の能登半島地震など日本各地の大地震への警戒がかつてない状況にあります。特に地球温暖化の問題は、単に世界的に気象災害が多発することばかりでなく、農林水産分野での食料資源の確保にも大きな影響があり、少し大袈裟に言えば、人類生存の危機とまで言う声も耳にすることが増えております。
 世界は21世紀の幕開けには様々な希望を抱いていたことと正反対の緊張と不安定な時代に入ったと言わざるを得ない状況であり、まさに我が国も地方自治体も、しっかりとこれらの点を踏まえながら、置かれた環境の中で最善を尽くすことが求められております。
 このような視点を前提に身近な県政に目を転じてみたいと思います。
 まさに国において食料・農業・農村基本法を食料資源の国際的な環境変化の中で、食料確保が国の安全保障の生命線になるとの観点から、抜本的な改正を進めております。食料自給率が先進国の中で最低位で、物理的にも外交的にも脆弱な我が国において、まさに本県の存在感が増す時代になったことを自覚しながら、高齢化、後継者不足など、多くの課題はありますが、農林水産行政は我が国の最重要政策であるというプライドを持って進めていこうではありませんか。
 今一つは、エネルギー資源の確保であります。私が県職員になった時期は石油ショックの真っ只中の中にあり、県民がトイレットペーパーや灯油を求め、そして建設業者はセメントや電線など建設部材を求め、県庁挙げて対策に走った時期であり、エネルギー資源と工業材料の確保はいかに重要かを身にしみて感じたものであります。
 そのような体験から、知事就任以前から少しずつ広がり始めた風力を含め本県の豊富な再生可能エネルギー資源に着目し、知事就任後は、特に力を入れてきました。
 職員の皆さんや県内民間企業の努力もあり、本県においては洋上風力や地熱、水力、バイオマスなど、全ての再生可能エネルギーの有効活用が進みつつあります。今後は、現在進行中の洋上風力と、それに派生する水素産業や将来の浮体式洋上風力、CCSなども含め県内への経済効果の最大化を図りながら、思い切って進めることが必要であります。
 また、本県は森林県でもあることにより、二酸化炭素吸収源として山の再造林の加速と再生可能エネルギー産業の進展が効果的にマッチングすることも認識し、加えて我が国最大の木材企業の立地と相まって、本県の森林木材産業の高付加価値化を目指すことが重要であります。
 特に産業面では、本県工業の中核を占める電子産業の進展が更に見通せる中で、進みつつある輸送機産業の基幹的な企業やIT企業の進出を更に加速することが重要であります。
 また、これらに加え、県内資源の有効活用につながる大手木材産業の相次ぐ進出や県内中核企業やベンチャー企業の意欲的な取り組みなども含め、人手不足下の人材獲得競争の激化という課題はあるにせよ、自然の流れというべき賃金水準の向上も一定程度見通せるようにもなってまいりました。
 このような中でいまひとつ将来に向けて着目することがあります。それは、高度情報化時代を支える基幹通信幹線の中継基点が本県になるということに加え、先般、政府から発表された将来の再生可能エネルギー電力の広域搬送に向けた北海道から本州への基幹送電線の中継基点が本県になるということであります。電力と通信の二つの重要インフラの中継基点が、いずれも本県になるということの意味をしっかりと認識することが重要であります。既に大手企業がこのことに着目していることを耳にすることもあり、様々な可能性を模索し、スピーディーに対応することが必要です。
 また、観光文化での新展開も期待されます。白神、縄文の二つの世界遺産の活用に加え、県内の宿泊施設の改善や男鹿半島での新規の高級ホテルの進出も見られ、JR東日本や航空会社、旅行エージェントなど関係機関との連携により様々なコンテンツを探り、磨きをかけることが必要であります。特にインバウンド観光では、本物志向、日本文化の原点のようなコンテンツに着目される傾向が強くなっております。クルーズ観光なども含め、アジア系に加え、世界のトップクラスの観光施設を見慣れている欧米人が増えるにつれ、並みな観光施設には目を向けず、古いまちなみや茶道、華道、日本の芸能文化など、ありのままの日本文化や大陸国家のスケールの大きな自然に比べ、逆に箱庭のように見える日本庭園などに興味を寄せられる傾向を捉える必要があります。
 次に、喫緊の課題としては、すでに進みつつある風水害対策として県内河川の強靭化と今般の能登半島地震の現状を踏まえた地震対策の見直しも、県民の安全確保のため、スピード感を持って進める必要があります。
 同時に、経済活動や県民の利便性に欠かせず、また、災害時のリダンダンシーの確保という面での重要性を増している高速交通体系と洋上風力発電やクルーズ観光受け入れの基幹基地として、さらには働き方改革に伴い運転手不足などの課題に直面しているトラック輸送業界の状況を踏まえた船舶輸送などへの転換、いわゆるモーダルシフトの観点からも、港湾や秋田新幹線の機能強化なども、同時並行的に進める必要があります。
 また、昨年の経験を踏まえ、本年も安心ができないクマの被害対策も、国の指定管理鳥獣になったこともあり、部局間連携を強め、県民の不安を解消するよう努力する必要があります。
 さらに、人口減少下の中で二次医療圏の再編成も、県民への情報提供や説明を尽くしながら最善の方向を目指していただくようお願いいたします。
 最後に、人口減少問題や社会の活力増進、パラダイムシフト真っ只中の望ましい社会を創るための女性の活躍推進であります。
 いつも言うことでありますが、海外に行くたびに海外の女性のハツラツとした女性の仕事ぶりに感心させられ、それがその国の発展の大きなエネルギーになっているように感じております。
 取りも直さず、かつてジャパン・アズ・ナンバーワンと言われた日本が、現在、世界の進展から取り残されている要因の一つに、女性の地位の向上が進まないという点にあるのではないかと感ずることがままあります。女性の時代と言われてから年月が経ちましたが、まだまだという状況であります。本年度の県職員の新規採用者の半分近くが女性職員になっております。全ての分野において日本の復権、秋田の再生には、女性の力にありという意識で進めていくことが必要であります。
 いずれ世界の先進国がおしなべて少子化、人口減少下にあり、移民によってもそれらの民族が先進国に一定程度定着すると、移民の子孫も少子化になるという統計があるようですが、そうですかというわけにはいかないのであります。
 少子化、人口減少問題も直近の統計では、以前の推計値より、少しではありますが上振れしている県に位置しています。本年度も少しでも進展ということで、幾つかの新規施策を進めることにしましたが、本県の場合の根本は、現在の世界の時勢を踏まえ、いろいろ述べてきました将来に希望が持てる様々な秋田県の強みを県民の皆さんにしっかりと伝え、また、外には秋田の存在感を際立たせるとともに、特に中高生などの若い世代に、故郷の未来に希望を抱いてもらえるようにすることが重要ではないかと感じております。
 結びに、「秋田の未来に自信と希望を」という言葉を合言葉に、この1年間、私も信念を持ち続け、皆さんと共に汗をかいていきますので、皆さんには県民の声をしっかりと受け止めながら、チームワークよく活躍していただくことを期待し、年度初めの挨拶といたします。
 本当に皆さん、本年1年頑張ってください。ありがとうございます。