1. 県民と県議会の関与
  2. 労働基本権と人事委員会勧告の意義
  3. 人事における公正性の確保
  4. 適正な給与制度の実現
  5. 給与水準の決定方法
  6. 諸外国の地方公務員の給与水準の決定方法

県民と県議会の関与 ~労働基本権を巡る仕組み~

知事は、県民に行政サービスを提供する義務を負う立場であり、地方公務員である職員(このページでは、以下単に「職員」と表記します。)もその専門性を活かしつつ県民全体の奉仕者としてその事務を中立・公正に執行することが求められています。他方、知事は職員の使用者としての立場でもあります。ただし、法令及び予算による県議会の統制の下、知事の使用者としての当事者能力には一定の制約があります。また、職員も、県民全体の奉仕者であることや職務に公共性があることなどから労働基本権が制約されています。

このように、知事と職員は、一方で協働して県民に対し行政執行の責務を負うとともに、他方で双方とも一定の制約の下で労使関係に立つという二つの側面を有しています。

さらに、民間企業では、労使で労働条件を決定するに当たって、労働者の過大な要求が企業の経営を悪化させ、ひいては労働者自身の失業を招くこともあることから、労使双方の行動に一定の抑制が働きますが、公務ではそうした制約(市場の抑制力)が存在しないことも一つの特徴です。

公務における労働基本権問題の検討はこのような公務特有の基本的枠組みを十分踏まえて行う必要があります。

画像 : 現在の公務における労働基本権の基本的枠組み

<参考>日本国憲法

第15条 公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
2 すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。
第28条 勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。

労働基本権とは、一般的に、勤労者が(1)団結する権利(団結権)、(2)使用者と団体交渉する権利(団体交渉権)、(3)ストライキなどの団体行動をする権利(団体行動権、争議権)の「労働三権」のことをいい、憲法第28条で勤労者の権利として保障されています。

職員は、県民全体の奉仕者であることや職務に公共性があることなどから労働基本権が制約されています。

職員のうち、ほとんどの一般職非現業の職員は、(1)職員団体(組合)を組織する権利(団結権)と(2)団体交渉権は保障されていますが(ただし、その結果について労働協約(勤務条件に関する労使の取決めのこと)を結ぶことはできません。)、(3)争議行為(ストライキなど)を行うことはできないこととされています。なお、警察官は(1)(2)(3)すべてが制限されています。

労働基本権の付与状況の表
区分 団結権 団体交渉権
(協約締結権)
争議権
地方公務員 非現業職員
(×)
×
  警察職員 × ×
(×)
×
現業職員(公営企業、特定地方独
立行政法人及び技能労務職員)

(△)
×

※○印は認められているもの、△印は効力に一定の制限があるもの、×印は制約されているものを示します。
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労働基本権と人事委員会勧告の意義

職員(地方公務員)は、労働基本権が制約される代わりに、人事委員会勧告制度を中核とする代償措置が講じられています。 ILO第98号条約(団結権及び団体交渉権についての原則の適用に関する条約)との関係

ILOは全ての公務員に労働基本権を付与することを求めているのではなく、国の行政に従事する公務員について団体交渉権・ストライキ権を制約することを認め、その場合には労働者の十分な利益保護のための適切な保障が確保されることを求めています。我が国においては、地方公務員制度も国家公務員制度に準じたものとなっており、同様の代替措置が求められるものとされています。

勤務条件の決定方法

職員の給与やその他の勤務条件は、社会一般の情勢に適応することが求められています。

<参考>地方公務員法

第14条 地方公共団体は、この法律に基いて定められた給与、勤務時間その他の勤務条件が社会一般の情勢に適応するように、随時、適当な措置を講じなければならない。

人事委員会は、随時、前項の規定により講ずべき措置について地方公共団体の議会及び長に勧告することができる。

判決に見る人事院勧告の意義

国家公務員の人事院勧告制度は、全農林警職法事件判決(最高裁大法廷昭和48年4月25日)において、労働基本権制約の代償措置であるとされています。

全農林警職法事件は、全農林労組の幹部が争議行為への参加をあおったなどの理由により国家公務員法違反の罪に問われたもので、裁判では国家公務員法による労働基本権の制限の合憲性が問われました。

判決では、憲法28条の労働基本権の保障は公務員に対しても及ぶが、公務員の地位の特殊性と職務の公共性に鑑みると、必要やむを得ない限度の制限を加えることは十分な理由があるとし、国家公務員法が身分、任免、服務、給与等の勤務条件について周到詳密な規定を設け、さらに中央人事行政機関として、準司法機関的性格をもつ人事院を設けていること、人事院が給与等の勤務条件について国会及び内閣に勧告することなどの代償措置が講じられていることを前提に、労働基本権の制約を合憲としています。

さらに、判決の追加補足意見として、この代償措置が実際上画餅に等しいと見られる事態が生じた場合には、その正常な運用を求めて相当と認められる範囲を逸脱しない手段態様で争議行為を行ったとしても、それは憲法上保障された争議行為であるというべきであるとの意見が示されています。

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人事における公正性の確保

職員は、憲法(第15条)が定める県民全体の奉仕者として、公正に職務を担わなければならず、このため職員の人事管理は、縁故や政治的な影響によることなく、能力本位で公正に行う必要があります。

地方公務員法では、平等取扱の原則や成績主義の原則、降任・免職等における公正の原則などの諸原則を定めるとともに、県の行政組織として、合議制の第三者機関である人事委員会を設け、人事行政の基本である任免の基準設定、給与の初任給や昇格・昇給の基準設定及び採用試験の企画立案・実施などを担わせることにより、職員の人事管理の公正性の確保を図っています。

画像 : 人事における公正性の確保
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適正な給与制度の実現

このような人事管理の公平性の確保に必要となる適正な給与制度の実現のために、社会一般の情勢に適応させる情勢適応の原則、その職務と職責に応じた職務給の原則、勤務成績や能力に応じた成績主義の原則の3つの基本原則が定められています。

情勢適応の原則(地方公務員法第14条)

職員の給与は、社会一般の情勢に適応することが求められています。人事委員会の給与勧告は、職員の給与水準を県内の民間の給与水準に合わせること(民間準拠)を基本としています。

職務給の原則(地方公務員法第24条第1項)

職員の給与は、基本的に仕事の種類や責任の度合いに応じて決定されています。職員(非現業の場合)の仕事の種類(行政職、公安職、医療職など)に応じた9つの給料表があり、そのうちいずれかが適用されます。給料表には職務の困難さや責任の度合い(係員、主査、課長など)に応じた職務の級が定められています。

<参考>行政職給料表の場合(民間企業の事務・技術職に相当)

それぞれの職務の級ごとに一定の幅で号給が定められていて、その中で勤務成績に応じて昇給します。

行政職給料表の場合の表
1級 2級 3級 4級 5級 6級 7級 8級 9級
主事
技師
主事
技師
主査
主任

副主幹
主査

主幹
副主幹
課長 課長 次長 部長

成績主義の原則(地方公務員法第40条第1項)

職員の給与は、勤務成績・能力に応じて昇格・昇給が決定され、勤勉手当(ボーナス)についても、勤務成績に応じて支給される仕組みとなっています。

<参考>職員の給与の種類

職員の給与の種類の表
給料 手当 ボーナス
(民間企業の本給に相当)
  • 扶養手当
  • 住居手当
  • 通勤手当
  • 単身赴任手当
  • 地域手当
    (県外の民間賃金の高い地域に勤務する職員に支給)
  • 管理職手当
  • 特殊勤務手当
  • 時間外勤務手当等
  • 期末手当
  • 勤勉手当

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給与水準の決定方法

人事委員会の給与勧告は、一般職の非現業職員が労働基本権の制約を受け、自ら勤務条件の決定に直接参画できる立場にないことから、その代償措置として設けられています。

画像 : 給与勧告の手順
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諸外国の地方公務員の給与水準の決定方法

諸外国の例としては、財団法人自治総合センター発行の「諸外国の地方公務員の給与決定に関する調査研究会(平成25年3月、座長早稲田大学政治経済学術院教授稲継裕昭氏)」の報告書によると、国と地方の公務員の扱いについて同じものとするか、違うものとするのかということで、独仏型と米英型というように分類することができ、独仏型は、地方公務員についても国家公務員と同様の規定が適用されることが原則で、協約締結権や争議権についても同様としており、米英型は、国家公務員と地方公務員の取り扱いは異なるとされています。

なお、これらの国における自治体の使用者の選出方法は、フランスでは住民が選出した議員の中から代表者である市長兼議長を選出する自治体が多く、イギリスでは2000年までは全ての自治体でフランスと同様の仕組みであったものの、その後5%ほどの自治体は直接公選首長制度に移行し、ドイツではフランス同様の選出方法だったものの、南独地域を中心に直接公選へと移行しているところも多いなど、それぞれ異なる状況とされています。

フランス

労働基本権の付与状況と給与決定の方法等については、国、地方共通となっているため、国家・地方公務員の俸給額は、すべて国が政令で統一的に決定しています。俸給は全国どこの地方自治体に勤務していても同じで、これに、手当が別途支給されることになり、地方自治体レベルでの労使交渉ができる項目は極めて限定的で、国が法令で定める範囲内での俸給の昇給期間や手当の額などに限られるとされています。

ドイツ

連邦公務員と同様に官吏と公務被用者の区別があり、官吏は協約締結権を持たないため給与は法定されますが、公務被用者は協約締結権を含む団体交渉権、争議権を有しており、その賃金は、労使交渉を経て締結される労働協約により決定されるとされています。

アメリカ

連邦公務員は連邦公務員法の規定が適用されるのに対して、州公務員および地方自治体職員は、各州の公務員関連法の適用を受けます。そのため給与をはじめとする勤務条件の決定方法が、団体交渉によるのか否か、さらには争議行為まで認められるかについては、州によって極めてバラエティに富むものとなっています。また、財政難の場合は、各州においてレイオフがなされることが多いことにも留意する必要があるとされています。

イギリス

地方公務員に関して地方公務員法といった統一的な定めはないため、民間と同様の労働関係法の適用を受けるため団体交渉権、協約締結権が認められ、争議権も禁止する立法上の措置がないため特に禁止されていません。多くの自治体においては、全国レベルの労使交渉で決定された給料基準をもとに給与決定をしていますが、そこから脱退した自治体も増えてきています。

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