AKITA女性アスリートSMILEプログラム血液検査事業 事業報告 [1406KB]

AKITA女性アスリートSMILEプログラム 血液検査事業

事業報告

スポーツ振興課 
 
 AKITA女性アスリートSMILEプログラムは、令和5年度に開始され、令和7年度で3年目を迎えた。本事業は、女子アスリートに特有の健康問題であるFemale Athlete Triad(利用エネルギー不足・視床下部性無月経・骨密度低下)および REDs(Relative Energy Deficiency in Sport)の早期発見と介入を目的としている。
 
 血液検査項目は、国立スポーツ医科学センターのメディカルチェックおよび秋田県スポーツ科学センターの「アスリート血液診断」を基に選定した。対象は競技レベルを問わずスポーツに取り組む女子中高生とし、採血は随時方式とした。令和7年度は新たに問診票を導入し、身体計測(身長・体重・体脂肪率)も併せて実施した。

 

 AKITA 女性アスリートSMILE プログラム血液検査事業血液生化学検査項目[95KB]

血液生化学検査項目

 

【令和7年度 血液検査事業総評】
 
 2. 参加者の概要
 
参加者数:62名  
  (2025年7月31日:20名、8月7日:12名、2026年1月8日:15名、1月9日:15名)
 
年齢構成:  
  12歳2名、13歳3名、14歳5名、15歳14名、16歳24名、17歳14名  
  (中学生9名、高校生53名)
 
競技種目:  
  バレーボール16名、陸上14名、バスケットボール13名、ソフトテニス11名、柔道2名、競泳・自転車・ソフトボール・軟式野球・ボルダリング各1名
 
検査後は「継続(A)」「経過観察(B)」「要精査(C)」の判定とスポーツドクター・栄養士によるコメントを、本人および本人の同意を得た指導者へフィードバックした(図1)。
判定区分
 
 
3. 貧血・潜在的鉄欠乏の状況
 
国体選手の貧血(低ヘモグロビン)頻度は、女子中学生8.6%、女子高校生19.6%と報告されている。本年度の結果は図2のとおりである。
 貧血・潜在的鉄欠乏の割合
 
貧血はヘモグロビン12.0mg/dl以下、潜在的鉄欠乏はフェリチン20ng/ml以下とした。  
潜在的鉄欠乏は貧血の前段階であり、疲労感・集中力低下・パフォーマンス低下に直結する。
 
4. LBM・LBMIによるエネルギー不足の評価
 
REDs は、従来の三主徴に加え、神経内分泌・免疫・造血など多系統に影響する。その根本原因は低エネルギー利用可能量(LEA)であり、治療の中心はエネルギー摂取の改善である1)2)。
 
エネルギー不足の評価指標として、  
- 除脂肪体重(LBM) 
- 筋肉指数(LBMI) 
を用いた。

年齢別除脂肪体重

年齢別筋肉指数

女子は思春期において、身長の伸び(PHV:Peak Height Velocity)が先行し、筋量増加は後から起こる。エストロゲンの影響により思春期前半は筋肥大が起こりにくく、「身長が止まってからLBMが増えやすい」という特徴がある。
 
本年度のデータでも、  
- 中学生:身長は伸びているがLBMが追いつかない例  
- 高校生:身長が安定し始めてからLBMが増加する例  
が確認され、生理的成長パターンと一致した(図3、図4)。
5. 日本人若年女性の痩身傾向とアスリートのリスク  
 
近年、日本の若年女性では「やせ志向」が強く、BMI18.5未満の割合は先進国の中でも高い水準にある。 また、令和7年度学校保健統計の発達状況調査からも、5~17歳でやせの割合が増加傾向にある。
この社会的背景は、女子中高生アスリートにおける慢性的なエネルギー不足(LEA)を助長する可能性がある。
 
特に、競技特性や審美的プレッシャーが加わることで、必要なエネルギー摂取量に対して心理的に「食べることを控える」傾向が生じた場合 
- LBM・LBMIの増加不良  
- 鉄欠乏  
- 月経異常  
- パフォーマンス低下  
など、REDsのリスクが高まる。
 
6. 継続受検者の変化
 
令和6・7年度の連続受検者は11名で、LBMIの平均増加率は−0.07で、5名で減少がみられた(図5)。
LBMIが減少していた5名のうち、  
- 3名が貧血  
- 1名が潜在的鉄欠乏  
- 1名が体脂肪率17%以下  
であり、痩身傾向とエネルギー不足の関連が示唆された。
 

LBMI変化

 LBMIの低下はエネルギー不足のサインであり、筋量低下、パフォーマンス低下、鉄代謝の悪化(図6)を引き起こし、継続的な追跡が不可欠である。

LBMIと血清フェリチンの関係図

7. 今後の課題と提言
 
-  LBM・LBMIを新たな指標として重視し、貧血・潜在的鉄欠乏と併せて評価 
-  LBM・LBMIは年齢・競技別の基準値は確立されていないため、個人の継続的追跡が重要  
-  令和7年度参加者の継続受検、令和8年度の複数回受検を推奨する
-  医師・栄養士・指導者・保護者が共通認識を持ち、連携した介入を行う    
 
本事業を通じて、選手自身が自らの身体を理解し、健康的に競技を継続できる環境づくりに引き続き寄与したい。
 
                                  
秋田県女性アスリートサポート委員会委員
日本スポーツ協会認定スポーツドクター
秋田県スポーツ協会スポーツ医・科学委員会委員
えのきこどもクリニック
榎 真美子
 
 参考文献)
1) AngelikiM.Angelidi,KonstantinosStefanakis,SharonH.Chou,LauraValenzuelaVallejo:RelativeEnergyDeficiencyinSport(REDs):Endocrine Manifestations, Pathophysiology and Treatments. Endocrine Reviews,2024,45,676-708
2) MonikaGrabia,JakubPerkowski,KatarzynaSocha,RenataMarkiewicz-Zukowska:FemaleAthlete Triad and Relative Energy Deficiency in Sport(REDs): Nutritional Management: Nutrients 2024, 16, 359.https://doi.org/10.3390/nu16030359
3)https://research-center.juntendo.ac.jp/jcrws/researchproducts/support/surari_muscle/スラリマッスル(順天堂大学女性スポーツ研究センター、独立行政法人国立病院機構西別府病院) 
 
 
【整形外科医からのコメント】
 本事業は、秋田県内の女子中高生アスリートが安全かつ継続的に競技に取り組める環境の整備を目的として、医師・栄養士による講習会、個別相談、ヨガ等の実技指導に加え、血液検査を組み合わせて実施したものである。
 
 令和7年度は事業開始から3年目にあたり、従来の知識提供中心の支援から一歩進み、医学的データに基づく個別評価とフィードバックを行うことで、より実践的な支援体制を構築することができた。
 
 血液検査および身体組成評価の結果から、貧血や潜在的鉄欠乏に加え、エネルギー不足やビタミンD不足といった、外見や自覚症状からは把握しにくい課題が一定数存在することが明らかとなった。特に成長期の女性アスリートにおいては、競技特性や体重管理の影響により、必要なエネルギー摂取が不足しやすく、その結果として筋量の増加不良やコンディション低下につながる可能性が示唆された。
 
 また、ビタミンDは骨形成や筋機能に重要な役割を担っており、その不足は疲労骨折のリスク増加に直結する。本事業により、こうした骨・筋機能に関わる栄養状態を客観的に把握できたことは、障害予防の観点からも大きな意義を有する。
 
 事後アンケートでは、「自分に必要な栄養素が具体的に分かった」「食生活を見直したいと思った」「自分の体の状態を初めて理解できた」などの回答が多く、参加者の健康意識の向上と行動変容につながっていることが確認された。さらに、誤った減量方法に対する気づきや、医療機関受診の必要性の理解など、教育的効果も認められた。
 
 一方で、継続受検者においては、筋量指標の低下や貧血の持続がみられる例もあり、単年度での評価にとどまらず、継続的なフォローアップの必要性が明らかとなった。
 
 今後は、対象者の拡大とともに、年複数回の定期評価やデータの蓄積を進め、個々の変化を捉える縦断的な支援体制を構築することが重要である。また、医師・栄養士・指導者・保護者が連携し、食事・トレーニング・生活習慣を含めた包括的な介入を行うことで、より実効性の高い支援へと発展させていく必要がある。
 
 本事業は、競技力向上のみならず、将来の健康維持や障害予防にも寄与する重要な取り組みであり、今後のさらなる発展と全県的な展開が期待される。
 
医療法人ととのふ 理事長
向島医院 整形外科
齊藤 英知

 

【産婦人科医からのコメント】
1.利用可能エネルギー不足(LEA)を防ぐ教育体制の構築
女性アスリートにおいて、利用可能エネルギー不足(Low Energy Availability: LEA)は、無月経、骨密度低下、疲労骨折、競技パフォーマンス低下などにつながる重要な問題である。中高生期は骨量獲得の最重要時期であり、この時期のエネルギー不足は将来的な健康にも影響する。
そのため、指導者・保護者・本人に対しての
• 「食事量=体づくりと競技力の基盤」という教育
• 月経異常を「トレーニングの成果」と誤認しない啓発
• 栄養士との連携体制の整備
が不可欠である。
 
2.月経異常を早期に相談できる環境づくり(産婦人科受診のハードル低下)
月経異常(月経が来ない・周期が乱れる)は、女性アスリートの健康状態を示す重要なサインであり、利用可能エネルギー不足や過度なトレーニングの影響を早期に把握する手がかりとなる。しかし中高生においては、「婦人科は大人が行く場所」という認識や羞恥心、相談できる大人がいないことなどを理由に、月経異常や月経困難症があっても受診が遅れることが少なくない。また、月経が止まることを「トレーニングの成果」や「競技のためには仕方がないこと」と誤って認識している場合もみられる。
さらに、若年期の月経困難症のうち約70%に子宮内膜症が認められたとする報告もあり1)、強い月経痛を「成長過程の一部」として見過ごすのではなく、早期に適切な評価と対応を行うことの重要性が指摘されている。子宮内膜症は進行性の疾患であり、早期からの治療介入が将来的な疼痛の軽減や妊孕性の保護にもつながる可能性がある。
そのため、「月経の相談は特別なことではなく、成長期における健康管理の一部である」という認識を広めるための情報発信が重要である。あわせて、学校や競技団体において相談先を明確に示すことや、内診を伴わない相談が可能であることを周知するなど、思春期の段階から産婦人科へアクセスしやすい環境づくりが求められる。こうした取り組みにより、月経異常や月経困難症の早期発見・早期対応につながる体制を整えることが重要である。
 
3.保護者・指導者世代への理解促進
中高生女性アスリートの健康管理においては、日常生活や食事管理を担う保護者の理解が極めて重要である。特に、月経異常が健康状態の重要な指標であること、食事量とトレーニング量のバランスの必要性、過度な体重制限が骨密度や将来の妊孕性に影響を及ぼし得ることについて、保護者が正しく理解していることが、問題の早期発見および早期対応につながる。
また、現在では、女性アスリートの健康問題として利用可能エネルギー不足や女性アスリートの三主徴、REDs(Relative Energy Deficiency in Sport)といった概念が広く認識され、医学的知見や支援体制も大きく進歩している。一方で、保護者世代がジュニア期を過ごした当時には、こうした概念が十分に知られていなかった場合も多く、当時の経験や価値観のままでは、現在の健康管理の重要性が十分に共有されない可能性がある。
そのため、保護者・指導者向け講習会の実施や分かりやすい資料の提供を通じて、最新の医学的知見を共有するとともに、家庭内で月経や体調について相談しやすい環境づくりを促す取り組みが求められる。
 
秋田県女性アスリートサポート委員会委員
日本スポーツ協会認定スポーツドクター
秋田県スポーツ協会スポーツ医・科学委員会委員
秋田赤十字病院産婦人科
小野寺 洋平
 
 
1) Janssen EB, Rijkers ACM, Hoppenbrouwers K, Meuleman C, D'Hooghe TM.
Prevalence of endometriosis diagnosed by laparoscopy in adolescents with dysmenorrhea or chronic pelvic pain: a systematic review. Hum Reprod Update. 2013;19(5):570–582.
 
 
 
【スポーツ栄養士からのコメント】
スポーツ選手におけるエネルギー不足の現状と対策
 
1. スポーツ選手におけるエネルギーの本質
スポーツ選手にとって、エネルギーとは「生命維持」と「競技パフォーマンス」の双方を支える根幹です。成長期の選手には、ここに「体を大きくするための分(成長分)」が加わります。エネルギーは、例えるならば「体を動かすための電池」のような役割を果たします。この電池は運動中のみならず、安静時や睡眠中も生命活動のために絶えず消費されています。
食事はこの電池をフル充電するための「燃料」であり、取り込んだ栄養素を体内で効率よく代謝することで、私たちの身体を力強く動かす原動力になります。
 
2. エネルギー不足が身体に及ぼす影響
「材料(タンパク質やミネラルなど)」が揃っていても、それらを組み立てるための「エネルギー」が不足していると強い体を作ることはできません。エネルギー不足の状態が常態化すると、スポーツ選手が日々受けている筋肉や組織の微細なダメージが、睡眠中に十分に修復されないまま翌日の練習を迎えることになります。
この「修復不足」による損傷の蓄積は重大なスポーツ障害を招きます。また、身体は生きるための防衛反応として「省エネモード」に切り替わり、筋肉がつかない、身長の伸びが止まる、免疫力が低下して感染症にかかりやすくなるといった多方面の弊害が生じます(スポーツにおける相対的エネルギー不足(REDs)」)。
特に女性選手においては、ホルモンバランスの乱れも加わり、無月経や将来の骨粗鬆症のリスクを高める「女性アスリートの三主徴(FAT)」へと発展し、将来の妊娠や出産に関わる大切な生殖機能にも深刻な影響を及ぼす。
 
3. 成長期特有のリスクと競技特性
成長期の選手は、身長の急伸、筋肉量の増加、練習の強化という三つのタイミングが重なる際、特にエネルギー不足に陥りやすく、この時期の十分なエネルギー確保が不可欠です。
 
エネルギー不足が深刻化する背景には、競技特性に起因する特有のプレッシャーや環境要因が複雑に絡み合っています。
審美性を重んじる種目や体重階級制の競技では、理想の体型維持や規定体重適合への強いプレッシャーから、本来成長に回すべきエネルギーまで削って食事を制限してしまう傾向があります。しかし、こうした過度な制限や急激な減量を繰り返すと「省エネモード」へと切り替わります。その結果、基礎代謝が低下し、かえって体重が落ちにくく脂肪を蓄えやすい体質になるという「負の連鎖」に陥ってしまいます。
持久系競技などに代表される長時間のトレーニングは膨大なエネルギーを消費する一方で、物理的な食事時間の確保を困難にします。さらに、激しい運動による自律神経の乱れは食欲低下を招き、選手本人が気づかないうちに、無自覚なエネルギー不足を引き起こす要因となります。
いずれのケースにおいても、エネルギーおよび栄養素の不足により、成長の阻害やオーバートレーニング症候群、さらには重大な怪我のリスクを高めることになります。指導者や保護者、周囲のサポートスタッフはこれらのリスクがどの競技でも起こり得ることを正しく理解し、早期の対策を講じることが不可欠です。
 
4. 予防と改善に向けた基本的アプローチ
エネルギー不足を未然に防ぎ、コンディションを最適化するためには計画的に栄養摂取する必要があります。
 
第一に、運動時の優先的なエネルギー源となる「主食(炭水化物)」の摂取量を増やす。第二に、一度に多くの量を食べられない選手に対しては、食事の回数を増やす「補食(間食)」の活用が極めて有効です。また、練習前後の補食は、エネルギーの枯渇を防ぎ、組織の修復を早めます。さらに、食事だけで補いきれない場合は、練習量を一時的に調整することも重要です。練習量を減らしてエネルギーの余力を生み出すことで、「成長」や「筋肥大」にエネルギーを回すことが可能となります。
 
5. 結論
エネルギー収支の状況を確認する最も簡便かつ有効な指標は体重測定です。成長期のスポーツ選手においては、身長の伸びに伴って体重が緩やかに増加している状態が、エネルギーが充足している理想的なサインです。 
指導者、保護者、そして選手本人がエネルギー不足のリスクを正しく理解し、適切な栄養戦略を実践することは、怪我の予防のみならず、長期的な競技寿命を延ばすための適切な投資と考えます。
 
秋田県女性アスリートサポート委員会委員
日本スポーツ協会認定スポーツ栄養士
秋田県スポーツ協会スポーツ医・科学委員会委員
城東スポーツ整形クリニック栄養相談室室長
長嶋 智子