AKITA女性アスリートSMILEプログラム 血液検査事業 事業報告 [1580KB]

AKITA女性アスリートSMILEプログラム 血液検査事業

事業報告

スポーツ振興課 
 
 令和5年度に、女性アスリート支援事業『AKITA女性アスリートSMILEプログラム 血液検査事業』として、パフォーマンスの低下やスポーツ活動に向かう意欲の低下を防ぎ、生涯にわたり笑顔でスポーツに取り組むための支援として血液検査を実施した。
 血液検査は、女性アスリート特有の健康被害である3主徴「利用エネルギー不足」「視床下部性無月経」「骨粗しょう症」の実態把握、早期発見による栄養指導や怪我の予防などの介入に繋げることを目的として行った。
 検査項目は、国立スポーツ医科学センターのメディカルチェック、秋田県スポーツ科学センターで行われている「アスリート血液診断」等を基に選択した。

 

  AKITA 女性アスリートSMILE プログラム血液検査事業血液生化学検査項目[95KB]

血液生化学検査項目

 

【令和5年度 血液検査事業総評】
 本事業は、競技レベルを問わず、スポーツをしている女子中高生を対象に行い、一部食事などの影響を受ける検査項目も含んだが、検査へのアクセスを優先し、随時採血とした。同時に、身長・体重・体脂肪率の測定を行った。
 参加数は合計60名(2023年12月1日 13名、2024年1月11日 28名、2024年2月2日19名)であり。
年齢の内訳は15歳9名、16歳17名、17歳23名、18歳1名であった。
 競技種目の内訳はバスケットボール41名、ソフトテニス9名、柔道6名、陸上2名、自転車1名、バトミントン1名であった。
 検査後、「継続」「経過観察」「要精査」の判定と検査結果に対するコメントを参加者及び指導者へフィードバックした。指導者へのフィードバックは、参加者の同意を得た上で行った。

 
グラフ

フィードバックは、日本スポーツ協会認定スポーツドクターの資格を有する整形外科医、内科医、産婦人科医、スポーツ栄養士がそれぞれの専門の視点で個別にコメントした。

 

フィードバック アドバイス票(サンプル1)[176KB]

フィードバック アドバイス票(サンプル2) [192KB]

 

 フィードバックアドバイス票(サンプル1) フィードバックアドバイス票(サンプル2)

 
円グラフ
 
 
 アスリートは貧血になりやすい状態であることが知られており、国体選手の低ヘモグロビンの頻度は、女子中学生8.6%、女子高校生19.6%との報告がある(1995~2001年都道府県実施血液検査集計)。
 令和5年度の血液検査事業では、鉄欠乏性貧血16.7%、その他貧血6.7%であった。また23.3%が潜在的鉄欠乏(低フェチリン低値)にあった。フェリチン基準値は4.6~207.4ng/mlであるが、女子アスリートの場合20ng/ml以下を潜在的鉄欠乏と判定している。
 
 鉄欠乏性貧血の割合が半数を超えたチームには、個別のフィードバックに加え、チームに対するフィードバックを行った。やせ、低蛋白血症も認められ、3主徴の「利用エネルギー不足」が考えられ、「栄養評価」「トレーニング強度の調整」「リカバリーの評価・見直し」を提案した。貧血の改善が選手の健康と競技のパフォーマンス向上につながることにはスポーツ医科学的根拠があることから、このことを参加者が理解し、前向きに取り組むことが大切であることを伝えた。
 
 また、女性の場合、月経が貧血に関係している場合がある。この機会に、月経の経血量が多い(過多月経)、月経時に腹痛等が強い(月経困難症)、月経不順がある場合には、婦人科を受診することを勧めた。
 厚生労働省では、毎年3月1日から3月8日までを『女性の健康週間』と定め、女性の健康づくりを国民運動として展開している。女性が生涯を通して、健康で充実した日々を過ごすためには、正しいカラダづくりが大切であり、食事、運動、健康知識が重要となる。
 
 女性アスリート支援事業は、AKITA女子アスリートSMILEプログラムは血液検査事業も含め令和6年度も継続される。
 スポーツに取り組む秋田県の女子中高生が本事業を通じて、自分のカラダについて知ることで、より健康に、競技のパフォーマンスを向上するだけでなく、健康リテラシーを高め、今後長く健やかな人生を歩むことを祈念する。さらに、健康リテラシーを高めた参加者が、自律的に、仲間に正しい知識を伝えることになれば、この上ない喜びである。
 
秋田県女性アスリートサポート委員会委員
日本スポーツ協会認定スポーツドクター
秋田県スポーツ協会スポーツ医・科学委員会委員
えのきこどもクリニック
榎 真美子

 

 

 
【整形外科医からのコメント】
《ビタミンD不足について》
ビタミンDの役割
 ビタミンDは、紫外線により皮膚で作られ、腸管からのカルシウムの吸収を促し、人間が生きていくために必要な血清のカルシウムとリンの濃度を維持する。骨の石灰化作用があり、骨の成長や再構築、筋肉の合成など、健康な骨や筋肉を維持するのに必要な脂溶性ビタミンだ。したがって、ビタミンD不足では骨や筋肉の健康に悪影響を及ぼし、疲労骨折や筋の回復不良などのリスクが高まることが危惧される。
 今回の血液検査ではビタミンDの血中濃度も計測した。ビタミンDの数値が30ng/ml以上をビタミンD充足群、20-30ng/mlを不足群、10-20ng/mlを欠乏群、10ng/ml以下を重度欠乏群とした場合、充足群0%、不足群5%、欠乏群77%、重度欠乏群13%だった。
 トップアスリートでもビタミンD充足の選手は非常に少なく、屋内競技では屋外に比べて少ない。疲労骨折との関連があり、ビタミンDを多く含む魚介類の摂取量を増やすことでビタミンDが改善することなどがわかっている。骨と筋肉の健康のために、20ng/ml(重度欠乏~欠乏群)の選手は、積極的に栄養学的な改善に是非取り組んでいただきたいと思う。
 
秋田県女性アスリートサポート委員会委員
日本スポーツ協会認定スポーツドクター
秋田県スポーツ協会スポーツ医・科学委員会委員
秋田大学医学部附属病院整形外科
齊藤 英知
 
 
 
【産婦人科医からのコメント】
 今回の調査において特に婦人科と関わりが特に強いと考える項目として、ヘモグロビン、体脂肪率、BMIが挙げられる。
 低ヘモグロビン、つまり貧血となる原因で最も多いのは、鉄欠乏性貧血である。女性では月経により鉄の喪失量が増加し、アスリートの場合さらに発汗によって鉄が喪失されるため、鉄欠乏性貧血になるリスクが高いと言える。成長期には鉄は骨や筋肉の成長にも使われるため、積極的に鉄を摂取する必要がある。
 体脂肪量の減少とともに月経異常が増加したという報告がある一方で、アスリートにおける月経異常群と正常月経群には体脂肪率に有意差はなかったとする報告もある。適切な体脂肪率はスポーツの特性によっても変わりうるため、一概に〇〇%とは定めることは難しい。少なくとも、栄養不足(利用可能エネルギー不足)は低体脂肪率ややせの原因であり、同時に無月経などの月経異常を起こしうる。月経異常が生じている場合、トレーニングの効果が出にくくなることが示されており、成績が伸び悩む原因となる。月経異常が生じている場合は、栄養面や運動強度の見直しが必要になる。
 
秋田県女性アスリートサポート委員会委員
日本スポーツ協会認定スポーツドクター
秋田県スポーツ協会スポーツ医・科学委員会委員
秋田大学医学部附属病院産婦人科
小野寺 洋平
 
 
 
【スポーツ栄養士からのコメント】
《ジュニアアスリートが気を付けたい主な栄養素をご紹介》
 エネルギー:ジュニアアスリート(学童期開始~思春期終了頃:18歳頃まで)はエネルギーをより積極的に摂取する必要がある。エネルギーバランス(エネルギー摂取量-エネルギー消費量)のマイナス状態が慢性化すると、成長・発達遅延、月経異常、低骨密度、貧血、スポーツ外傷・障害の発生率の増加などにつながり、競技パフォーマンスに悪影響を及ぼす。減量を行うことが多い競技種目や体重階級制競技、運動量が多い競技種目では負のエネルギーバランスが生じやすいため、注意が必要だ。一方で、エネルギーの過剰摂取は肥満の原因となるため、エネルギーは過不足の無いように摂取する必要がある。
 
 たんぱく質:エネルギーと同様にジュニアアスリートではたんぱく質の必要量が多くなる。運動していない子どもよりも多くなるが、通常の食事から摂れる量であり、プロテインサプリメントに頼ることはない。しかし、朝食欠食、減量、偏食がある場合は不足する可能性がある。
 炭水化物:炭水化物は脂質とともに運動時の主なエネルギーとして利用される。スポーツ選手にとって練習・トレーニングをするために重要な栄養素であり、それぞれの競技種目のパフォーマンスに直結し、身体づくりにも必要不可欠な栄養素だ。不足すると、トレーニングの質・集中力の低下、筋肉量の低下、疲労回復の遅れ、疲労骨折・貧血発症リスクが高まる。エネルギー摂取量を適正化するためにも炭水化物の摂取は大変重要である。
 カルシウム:カルシウムの適切な摂取は骨量の維持・増加に重要だ。骨密度は幼児期から増加し続け、思春期に最も著しく増加し、およそ20歳で最大骨量に達するとされている。負のエネルギーバランスが慢性化しているアスリートや月経異常のアスリートでは骨密度低下や疲労骨折が起こりやすくなる。ジュニアアスリートはカルシウムを多めに(1000~1500mg/日)摂取することが推奨されている。加えて骨代謝にはビタミンDが必要不可欠だ。ビタミンDについては整形外科医師からのコメントを参照。
 鉄:女性アスリートの三主徴(FAT)は利用可能エネルギー不足(LEA)が主な原因になるが、鉄欠乏性貧血を併発している場合がしばしば見らる。鉄欠乏性貧血の根本的な解決にはエネルギー摂取量を増やし、LEAを改善する必要がある。食事量が適切か否かは体重で確認できる。起床時排尿後の体重を家庭で測定し、エネルギーバランスを確認しよう。貧血予防・改善には、加えてたんぱく質、鉄、ビタミンCなどの栄養素が役立つ。
 
秋田県女性アスリートサポート委員会委員
日本スポーツ協会認定スポーツ栄養士
秋田県スポーツ協会スポーツ医・科学委員会委員
城東スポーツ整形クリニック栄養相談室室長
長嶋 智子