平成23年4月22日、秋田県漁業協同組合船川総括支所から「かわった魚が捕れた」という連絡が入りました。さっそく、荷捌き所をたずねたところ、写真の魚が冷蔵庫から出てきました。

一見、やせたメダイのように見えましたが、頭の形、ひれの大きさなど各部が微妙に違います。うろこの配列やひれの条数(ひれの膜を支える骨状の筋)などを確認したところ、ハナビラウオPsenes pellucidusの成魚であることがわかりました。ヒラメを狙ったさし網により、船川沖で捕まえられたもので、全長56.0cm、体長46.7cm、体重1,646gのオスでした。

ハナビラウオはスズキ目エボシダイ科に含まれ、メダイやイボダイに比較的近縁な魚類です。幼魚は体が半透明で卵円形、ひれの大きいかわいらしい姿(脱色したカクレクマノミ=ニモといえばわかるでしょうか)をしていて、よく、クラゲについているところを観察されています。ハナビラウオという名前の由来も、この幼魚の姿によると推察されます。分布域は「釧路以南の各地、北西太平洋、インド洋、大西洋」とされていますが、成魚は捕まることが珍しく、海の底の方にいるらしいということ以外に詳しい生態はわかっていないようです。今回獲れた成魚の姿は、よく知られた幼魚とはかなり違っていました。

よくわかっていない生態の一部でも解明したいということで、どんなものを食べているのか調べてみたのですが、残念ながら消化管の中はからっぽでした。しかし、口の中が黒い、骨が柔らかい、鰓耙(“さいは”と読みます。櫛状をした鰓“えら”の一部で、水と餌を濾し分ける器官です)がまばらで柔らかいなど、日ごろ見慣れた魚とは違った多くの特徴が見られました。特に、食道付近の消化管の内壁にはざらざらした歯のようなものがついた袋状の器官が見られるなど、独特の構造となっていました。

さて、私たちにとってもうひとつ大いに興味をそそられること、その味についてですが、インターネットや図鑑で調べてみると、「料理によっては食べられる」、「美味」など期待できそうな情報もありますが、「食味については不明」、「普通は食べない」などのほか、「脂肪分が多く食べ過ぎると腹を壊す」といった記述まであります。多少の覚悟をもって、刺身、洗い、みそ汁で試食してみたところ、身は極端に柔らかい上、透明感のない白身(サメに近い感じでしょうか)で、確かに脂はのっていて、カツオのような赤味魚に似た一種独特の風味(旨み?くせ?)が感じられました。肝心の評価については、やはり人によって賛否両論が出ましたが、概ね刺身については低い評価、みそ汁については高い評価が多かったように思われます。少量だったためか、お腹を壊した人がいなかったことは幸いでした。

※注:魚類は種類や部位によって毒をもつものがあります。また、通常は毒のない種類でも環境によって毒化する場合がありますので、知らない魚や、普段食べたことのない部位(卵、白子、肝など)の試食は危険を伴います。決して安易な気持ちでまねをしないでくださいね。

 

参考文献

中坊徹二編(2000).日本産魚類検索図鑑 全種の同定.東海大学出版会.
岡村収・尼岡邦夫編(1997).山渓カラー名鑑 日本の海水魚.山と渓谷社

写真:ハナビラウオの成魚1

写真:ハナビラウオの成魚2

写真:ハナビラウオの成魚3