写真:ウバトリガイ写真:ウバトリガイの斧足

  • 和名 ウバトリガイ(学名 Serripes groenlandicus
  • 大きさ 殻長98.8mm 殻幅58.9mm 重量 219g
  • 採集日 2012年3月14日
  • 採集地 秋田市沖の岩礁(通称シグレ)の沖側 水深320~330m
  • 採集法 かに籠

市場調査で秋田県漁協船川総括支所を訪れると、漁業者にズシリと重い活きた二枚貝を見せられ、名前を聞かれました。一見すると、三陸地方で見慣れたウバガイ(ホッキ貝)のようでした。しかし、採集場所と方法は、なんと水深300m以深に仕掛けたカニ籠(ズワイガニ籠;写真参照)とのこと。ウバガイは通常そのような深場に生息しませんので、貝を持ち帰り調べたところ、「ウバトリガイ」と同定されました。「日本近海産貝類図鑑」によると、ウバトリガイの分布は福井沖から北海道沖の水深10~50mとされているので、この個体は異例と言えるほどの深場で採集されたと言えそうです。ちなみに、近縁種のナガウバトリガイは男鹿半島以北~北海道の水深14~200mに分布するとされますが、形態がやや異なります。

寿司ネタとしてお馴染みのウバガイは斧足(砂泥に潜ったり移動する際に使う)の色は生時は灰色~青紫色で、加熱することで美しい朱色に変わりますが、本種の斧足は生時にすでに朱色である点で異なります(写真参照)。

さて、300mを超える深い海底に設置したカニ籠に、どうやって二枚貝が入ることができたのでしょうか?当初はこの貝が、ホタテ貝のように殻を開閉して泳ぎ、カニ籠上面の入口から入ったのかと思いましたが、その分厚い殻や形態では難しそうです。そこで、船頭さんに実物のカニ籠を見せてもらい謎が解けました。カニ籠の目合いは県の規則で決められており、その目合いが貝の直径よりも大きかったのです。この貝は、カニ籠が海底に着いた際に、底面の目合いから籠に入り込み、再び目から抜けることなく引き上げられてしまったのでしょう。

最後に、貝を御提供頂いた、萬漁水産の皆様、および貝の同定に際し貴重なご助言を頂いた、東北大学大学院の佐々木浩一氏および秋田県立博物館の船木信一氏に、この場を借りて厚く御礼申し上げます。

写真:貝が入ったかにカゴ