植生管理のための火入れ体験 ~茨城県小貝川河川敷・菅生沼編~
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八郎湖に係る湖沼水質保全計画では、ヨシ等を利用した自然浄化施設の整備を予定しており、水質浄化効果の検証試験や整備実施後のヨシ等の植生管理手法などの検討を行っています。
茨城県小貝川河川敷及び菅生沼においては、毎年、植生管理のために火入れ(現地では「野焼き」と呼んでいる)を行っており、その手法について調査すべく、平成22年1月23日、24日に行われた火入れに参加しましたので、その体験談を報告します。
実施位置及び概要
小貝川河川敷は、茨城県常総市(旧水海道市)大和橋下流、小貝川右岸に位置し、ノウルシやヒメアマナ、タチスミレなどの希少植物を保全するために、地元の「水海道自然友の会」が主体となって、毎年この時期に枯れたオギなどに火入れを行っている。
小貝川河川敷の情報は、こちらから。
菅生沼は、同じく常総市菅生町無量寺下に位置し、タチスミレなどの希少植物を保全するため、地元の「ミュージアムパーク茨城県自然博物館」が主体となって、毎年この時期に枯れたオギやヨシなどに火入れを行っている。
菅生沼の情報は、こちらから。
どちらも、岐阜大学 流域圏科学研究センター 植生資源研究部門・植生機能研究分野 津田研究室(津田准教授)と東京大学農学生命科学研究科生園システム学専攻 保全生態学研究室(西廣助教)が火入れの影響・効果等について調査研究を行っている。
火入れについて
火入れの目的は何か
両地区ともに、火入れによってヨシやオギなどの繁茂や藪化による希少植物の生育阻害を取り除くために実施している。この地域では、積雪もなく温暖な気候のため植物の発芽は早いと考えられ、植物の芽吹きに影響の少ない1月に実施しているようである。
火入れによって枯れたヨシやオギが無くなることで、太陽光が十分に地表に届くようになり、地温が上昇し、多様な植物の芽吹きが促進されることになる。
同じ効果を得るには、刈り取りも手段のひとつであるが、よしずや茅葺き利用が無くなった昨今では火入れは植生管理の有効な手段である。
ダイオキシン問題と絡んで、「火入れ(野焼き)=ゴミ焼き=悪」と勘違いされるが、植生管理としての火入れの効果は様々な研究によって裏付けられている。


火入れの方法
- 火入れの範囲は、植生管理方針、地形、樹木の分布、風向きなどによって決める。
- 延焼防止のため、枯れ草等の刈り払いにより防火帯をつくる。
- 焼きたい場所の周辺から火をつけて、中心方向に火が進むようにする。
- 焼きたくない場所を焼かないためには、水を掛けたり棒でたたくなど、消火しながら燃焼をコントロールする。
- 焼きたくない場所の近くから先に着火して、燃焼済み区域を広げておく。
- 消火を確認する。


地中の植物に影響はないのか
枯れ草はほとんど一瞬にして燃え、炎が地表を走り去るように燃焼区域を広げていく。
この時、地上部では数百℃になるが、地表面は40℃程度、地下ではほとんど温度上昇はない。
つまり、地表の種や植物の根、地下茎などにはほとんど影響はない。
たき火のように一箇所で燃え続けるのは、植生管理のための火入れとしては好ましくない。
岐阜大学 津田先生の報告は、こちらへ。


ばい煙は気にならないのか
小貝川でも菅生沼でも、火入れ時の煙、降灰は結構目についたが、だれもそれを気にする感じではなかった。実際、盛り燃えているときはひどいと思うが、直ぐに収まるので、広い範囲には影響していないか、あるいは火入れの目的を住民が認知しているのだと思う。


八郎湖の場合は
方上地区自然浄化施設は、ヨシを主体とした自然浄化施設であることから、良好なヨシの植生を適正に維持すること、数年ごとに堆積した泥の除去が必要と考えている。
火入れによる植生管理は、同時に堆積した泥の集積の際に支障となるヨシの枯茎などの除去もできることから、その可能性について検討しているが、施設の整備を予定している大潟村では大規模な火入れの前例が無く、今回の茨城県での調査事例は、とても有用な情報となった。