背景

湖沼や河川下層の貧酸素化は、底質からのリンの溶出、底生生物の生息場の喪失、硫化水素やメタンガスの発生、有害金属の溶出をもたらし、生態系劣化の大きな要因となる。夏季のアオコ発生が定常化している八郎湖においても、湖下層の貧酸素化が生態系劣化をもたらす要因の一つと考えられる。

目的

湖沼や河川下層の貧酸素化の抑制の手段として、高濃度酸素溶解・供給装置による高濃度酸素水(以下、酸素水)を貧酸素域に供給することにより水質・底質におよぼす影響を評価する。

調査地点の選定

試験区は、大面積の八郎湖よりも検証が容易と考えられる小断面の河川として、流入河川の豊川河口を選定し、対照区は豊川と類似の水質を持つ井川河口とした。

図:位置図

高濃度酸素溶解・供給装置の概要

  1. 装置の構成
    • 高濃度酸素溶解装置((株)大栄製作所製の酸素ファイター、OD-910F)
    • 酸素ガス発生装置(OX-3.7、KOFLOC)
    • コンプレッサ(エアドライヤ付)、循環ポンプ及び合成樹脂製パイプ
  2. 装置の概要
    ①酸素ガス発生装置は、吸着剤により空気中の窒素を吸着除去し、空気から高純度(90%以上)酸素ガスを生成する。生成した酸素ガスはコンプレッサで加圧し、高濃度酸素溶解装置に送る。③装置内では、加圧酸素の中に②循環ポンプで汲み上げた河川水(毎分1.7m3)を通過させることで酸素を効率的に水中に溶解させて酸素水(溶存酸素濃度20mg/L程度)を作り、④パイプにより河川下層部に送水する。

図:装置の配置図

試験期間 

平成25年度から平成27年度までの3年間として、各年度の実施期間は以下のとおり。

  • 平成25年度  H25.7.3~H25.10.31
  • 平成26年度  H26.5.27~H26.10.31
  • 平成27年度  H27.5.19~H27.10.31

結果と考察

溶存酸素量(DO)への影響

河川水のDOは、気象にも左右され年次変動があるが、夏期に低下を示し、表層に比べ下層は低下量が大きい。酸素水の供給は下層の貧酸素化の抑制に効果的であり、試験区下層DOは対照区よりも有意に上昇した。H27年は対照区の下層の貧酸素化が長期化したが、試験区では装置稼働後の6月以降は6mg/L程度を維持した。3か年とも5月から6月にかけてDOが著しく低下したため、5月下旬から装置を稼働したH26年、H27年は、7月稼働のH25年よりも貧酸素化の抑制効果が顕著であった。(図3)


図:DO濃度
       図3 試験区と対照区におけるDOの推移
        ピンクのハイライトは装置稼働期間を示す

溶存酸素量(DO)の上昇範囲

調査位置から上下流方向への多点調査の結果、対照区では河口に近づくほど表層のDOが上昇し下層では低下する乖離現象が確認されたのに対し、試験区では酸素水供給地点下流で下層DOは表層と同等レベルまで上昇し、乖離現象は緩和された。H25年~H27年の結果より、試験区における下層DOの上昇効果は400m程度維持された。(図4)

図:DO変化

PO4-P濃度の変化

酸素水の供給は、特にPO4-P濃度低下へ対する影響が顕著であった。対照区では下層DOの低下に伴いPO4-P濃度が上昇した(図5)一方、試験区では両者に明瞭な関係は見られなかった。これは、貧酸素化に伴う底質からのリンの溶出が酸素水の供給によって抑制されたためと考えられた。(図6)

図:PO4-P濃度

3年間の観測の結果、対照区では下層DOの低下に伴い、下層PO4-P濃度が上昇し、負の相関が認められた。特にDOが6mg/Lを下回るとPO4-P濃度が顕著に上昇した一方試験区では、対照区で確認された相関は認められなかった。

底質の炭素含量の変化

試験区の装置直下の河川底質の炭素含量は、装置稼働前(H24年)と比較して装置稼働後(H25年~H27年)に有意に減少した。一方、試験区下流200m地点の炭素含量の減少は認められず、酸素水による底質改善の範囲は広くないと推察された。

今後の方針

本試験結果から、河川低層の貧酸素状態の解消、底質からのリン溶出の抑制、炭素含量の減少が確認されたことから、八郎湖に同様の設備を設置し、湖内水質改善効果の実証試験に移行することとする。

引用:文章及び図3、図4は、「平成27年度アオコ対策事業 高濃度酸素水供給による底泥改善効果検証業務報告書 秋田県立大学生物資源科学部生物環境科学科 早川敦、片野登」から引用