4月1日(金) 県正庁 

  厳しい冬も急激に和らぎ、間もなく桜の便りが間近に聞こえてくる頃ですが、新型コロナウイルスの発生から3年目を迎えても、いまだ収束が見通せず、さらには、ロシアのウクライナへの侵略という事態による世界的な事案の発生により、なかなか先が見通せない状態で新年度を迎えることになりました。
 事態がどのような方向に向かうのかを言い当てることはできませんが、いずれにしても、様々な特異な時代に向き合いながら、置かれた状況の中で最善を尽くすべきことには変わりはないものであります。
 まずは、毎年恒例の人事異動を伴う令和4年度がスタートしますが、異動された職員の皆さんは、迅速・的確に事務引継ぎを行い、新体制として速やかにスタートしていただきたいと思います。
 私はこの1年、様々な場所で、特に次のことを強調してきております。
 それは、コロナパンデミック後の様々な価値観の変化、すなわちパラダイムシフトへの対応と、日本における次の四つの危機であります。
 一つ目は食糧の自給。二つ目はエネルギー資源の確保。三つ目は国土の強靭化。四つ目は国土の防衛の、四つであります。
 新型コロナウイルスとの闘いも3年目となり、ウイルスは変異を繰り返しながら感染力を強めるなど、今なお、私たちの生活や健康に影響を与えており、一時感染収束の傾向も見受けられたものの、進学、転勤など人流の高まりなどもあり、拡大傾向とも捉えられる動きも見受けられます。
 今後、さらに効果の高いワクチンや治療薬の開発が進み、治療方法が確立するにつれ、いずれは収束の形が見え始めてくるものと推測しておりますが、当面、医療検査体制のさらなる整備や緊急的な経済対策など、コロナ対策に注力していかなければならないことは確かであり、直接担当部局はもとより、全庁的にしっかりと取り組んでいく必要があります。
 加えて、これまでの歴史を見れば、ウイルスは人類と共存に近い関係を保っていくとの見方もあり、ウイルスが完全にはなくならない中での生活も想定し、欧米諸国のように一定の感染状況においても社会経済を動かしていく方向も見据えた対策に舵を切っていかなければならず、国においてもその方向にあるように推測されます。
 さらに、大切なことは、コロナパンデミックは人々や経済界に大きな行動変容を与え、当然に元の社会経済状態には戻らないということを認識すべきであります。
 当然、かつてのままの形態では存続が難しくなる一定の産業分野がある一方で、新規需要が増加する分野や、新たなノウハウや技術を必要とする分野が生まれることは、すでに現状を見ても明らかではないかと思います。
 また、今般のコロナ禍を契機に、東京圏に人口が集中することのリスクが一層明らかになり、都市集中型から地方分散型の社会に転換する必要性が再認識されているほか、近年の働き方改革や働く場所を選ばない勤務形態などの新しい動きが浸透しつつあり、特に若者の地方志向が高まりを見せるなど、新たな人の流れが生まれてきております。
 そして、人間は、コロナ禍といえども何年も潜んで暮らすことはできません。すでに3年がたちました。
コロナが少し落ち着きを見せ始め、言葉は適切か否かは分かりませんが、警戒をしつつもコロナに微妙に慣れ始める頃になれば、通常の社会社会に近い形で過ごしたくなり、春の陽光とともに観光や文化、スポーツなど日常生活の楽しみに対する要求は、せきを切ったように高まることも予想されます。
 しかし、これまでと異なる行動形態にもなる可能性が高く、時代に即した観光振興を進めるとともに、新装なる芸術劇場の活用や県立体育館の改築計画も含め、文化・スポーツ活動の活性化を進め、県民に楽しみや元気を取り戻していただくよう努力する必要があります。
 もちろん当面は、オミクロンBA.2というさらなる変異接が拡大傾向にもあり、適切な対策を講じていかなければならないことは言うまでもありません。
 これらの点をしっかりと踏まえつつ、適宜的確に様々な動きに対応した施策・事業をフレキシブルに進める必要があることを、頭に入れていただきたいと思います。
 加えて、最近における国際経済環境やウクライナに対するロシアの軍事戦略は、ウクライナ周辺にとどまらず、世界的に軍事緊張の高まりを誘発するとともに、食糧やエネルギー源、工業材料の確保を中心に世界経済へ大きな影響を及ぼしております。
 特に、資源がなく、円安が進む日本では、その影響はより深刻化する可能性があることを認識しておく必要があるものと思います。
 一方で、コロナパンデミックや国際紛争など、様々な懸念要因が増す中にあっても、地球温暖化に対するCO2ゼロエミッション、IoTやビッグデータ、AI等の活用など、技術革新の流れは変わるものではなく、しっかりとした対応が必要であることは言うまでもありません。
 そのような中で、先に申し上げた四つの危機への対応を考えたときに、国の専権事項である防衛を除き、三つの危機に対する私たちの秋田の位置付けを再認識すべきであります。
 豊かな水や森林、広大な農地、四季の変化に富んだ自然環境、そして風力や地熱等の再生可能エネルギー源などの豊富な資源に恵まれた本県には、経済の好循環を生み出す下地があります。
 多様な資源を効果的に組み合せ、活用することで、持続可能な社会経済の仕組みを創り上げることができると考えております。
 小麦粉や大豆など、大半を海外輸入に頼っている基幹的な食糧資源の入手難の折、効率的な米作環境を維持しつつ、農業の複合化をさらに前に進め、食糧供給源の強化を図り、我が国の食糧安全保障をしっかりと支えることが秋田の役割になりつつあります。
 加えて、水産物についても、輸入難の時代に入り、養殖漁業へのアプローチは、まさに時宜を得た取り組みであったと思っております。
 さらには、カーボンニュートラルのためのCO2吸収源となる山の若返り、再造林対策も木材資源輸入難と相まって、本県の木材産業の再生に結び付けるチャンスとも捉えられます。
 様々な施策・事業が実を結び始めてきた今、自信を持って農林水産行政を進めていきたいと思います。
 そして、洋上風力発電や地熱発電等による再生可能エネルギーの供給は、カーボンニュートラルの実現に寄与することはもちろんでありますが、国際環境の激変によるエネルギー源の確保が我が国の危機事案になりつつある中、本県の再生可能エネルギー供給のプロジェクトは、地域への新しい産業の誘発や地域振興への最大限の波及効果の追求を踏まえつつ、一層加速させなければならない必然性を伴うものになっております。
 さらに、最近の企業誘致を流れを見ますと、東南海地震や首都直下型地震など、大災害時における企業の存続を見据えるとともに、将来の工業生産のCO2ゼロエミッション化を見通したものと推察される事例も多く見受けられる傾向にあり、再生可能エネルギー源の宝庫であり、また災害安全度が極めて高い本県の可能性は増しているものと思っております。
 的確に高速交通体系や港湾機能の整備、災害安全のための県土の強靭化をしっかりと進めることが肝要であります。
 そして、世界を席巻するデジタル化は、コロナ禍において社会への実装の場を急速に、かつ大きく広げており、日本の取り組みの遅れが歴然としております。
 デジタル技術は、社会を豊かにする要素に満ちており、その恩恵を多くの人々が享受できるよう、デジタルディバイドの解消を図りながら、情報通信基盤の整備はもとより、リモートワークやワーケーションによる働き方の改革、医療や教育、交通システムなど、あらゆる分野においてデジタル技術を活用することにより、少子高齢化や過疎等による生活の利便性の低下を余儀なくされている地方社会が一変する可能性を秘めております。
 今後は、VR、仮想現実や、AR、拡張現実などのデジタル技術の飛躍的な進展により、産業構造の抜本的な転換を促すとともに、仮想空間の共有や3次元画像の活用により、離れた場所での専門技術の習得や高度医療の施術、新たなコミュニケーション手法の構築など、時間、距離、場所の概念を根底から覆して、人間の活動領域を拡大していくものと推測しており、時代を先取りした取り組みが必要であります。
 ただ、情報技術の急激な進展には、幾つかの大きな落とし穴があることは認識しておくべきことと考えます。
 一つは、正確な情報を持つ者、情報化の中枢にいる人間とそうでない人間との間に大きな格差が生じ、階級社会になりつつあることであります。
 現にその傾向は様々な分野で顕著に現れ始め、それをどのように解決していくかが、これからの大きな社会問題になることは確実であります。
 二つ目は、様々な情報を受け止める能力のかん養が大切になることであります。誤った情報、作為的な情報をうのみにし、これが拡散することにより、誤った行動に走ったり、社会が混乱する事例が頻繁に見受けられるようになっております。
 必然的に情報発信源や情報処理過程、流通過程は、ブラックボックス化することをしっかりと認識しておくべきで、受け取る様々な情報の根源やそのプロセスを自らひも解く能力を身に付けることが大切であります。
 また、情報処理ソフトを使い、問いを入力するとすぐに答えが出る、自動的に機械設備が動く、効率よく事務処理をするということは、そもそものインとアウトの手順のプロセスを知らぬままでいることにつながりかねないことであります。
 全ての情報処理には、数学的、論理的、理化学的、時には社会科学的な思考も擬似的なアルゴリズムとして入 るものでありますが、その多くは、そもそも古来からの原理・定理に基づくもので、この原理・定理をもとにプログラムが組まれているものであります。
 現代人の思考過程は短絡的で、本来の基礎的知識が欠如している傾向があるとも言われております。
 一定程度はブラックボックスの中身を解析する能力を身に付けなければ、ただ情報に踊らされているだけの受け身の人間になるばかりであります。
 情報化の急激な進展の中、様々な基礎知識や事象の原理原則、社会の生の声をしっかりと思い起こすこと、受け止めることが、情報化の中で暮らす人間には必要ということを認識していただきたいと思います。
 さて、本県には、白神山地をはじめとする豊かな自然の恵みを受けながら、採集や漁労、狩猟により定住生活が営まれてきた、1万年あまりにわたる縄文以来の自然との共生の精神が息づいております。
 こうした本県の豊かな自然環境や水資源などを大切にし、守るべきものをしっかり守り、活用すべきものは適切に活用することは、まさにSDGsの理念にも合致しております。
 また、次代を担う子どもたちには、この精神を引き継ぐとともに、先駆的で実用的なデジタル技術の習得や実践的な英語コミュニケーション能力等により、この激動の時代を生き抜く力を身に付け、国内外で活躍するとともに、様々な形で「ふるさと秋田」に貢献していただきたいと願うものであります。
 県政の基本方針である新しい元気創造プランは、以上のような現状の変化と先を見据えたスタンスで作成されたものであります。
 総括して言えば、人口減少政策の要となる社会減の抑制や婚姻率、出生率の向上などの人口減対策の根幹としての若者の定着・回帰や女性の活躍の推進、そして県民の豊かさを実感できる現実的な問題としての大都市圏との賃金格差の是正なども、基本的にはこれまで述べてきたように、本県の様々な可能性を開花させる総合的な取り組みによりかなうものと考えております。
 最後に、私は従前から、秋田の閉鎖性、自己中心的な考え方を、いわば天動説の土地という言葉で表現してまいりました。
 コロナ禍は、秋田を中心に回っているわけではございません。
 人間の行動範囲が拡大し、価値観の多様化が進む中にあって、よその世界を見て知ること、新しい考えを受け入れること、様々な異なる価値観を理解することが、新しい道につながります。
 差別や偏見を排し、どのような立場、境遇の人もお互いに人間として認め合う寛容で多様性のある秋田こそ、秋田の将来像であるべきではないかと思っております。
 まさに「高質な田舎」であります。そのための条例も成立いたしました。
国内外とも激動の時代。厳しい環境には置かれておりますが、ぜひとも今年度は秋田のテイクオフの年にしたいと思っております。
 皆さんには健康に留意し、また職場環境の融和に努め、県民の皆さんの心に寄り添いながら、よい意味での緊張感を持ちながら、しっかりと仕事を進めていただくことを期待いたしております。
共にかけがえのないふるさと秋田の未来に向け、進んでまいりましょう。
 終わります。