4月1日(水) 県正庁 

  新型コロナウイルスの関係で、例年に比べ、いささか寂しい年度始めでございます。
 さて、昨年も暖冬でしたが、今年は正に秋田の冬とは思えないレベルの劇的な暖冬で、春の訪れも早く、過ごしやすかったという声や燃料が少なくて済んだという声が聞こえる一方で、山岳部の雪が少なく、水不足になるのではという心配の声も聞こえたり、冬物がさっぱり売れず、消費税の増税によります影響と併せダブルパンチだったという声、また、冬場の除雪の収入を見込んでいた業者の方にとっては、非常に酷ともいえる冬でございました。
 そのようなある種、異常な季節の変わり目に新型コロナウイルスという極めて厄介なものが世界を席巻し始め、目下、世界各国が否応なしに、この見えざる敵を相手に闘わざるを得ない状況になり、本県においても奮戦している状況にあります。
 県政運営の面でも県民の命を守るため、感染拡大の阻止と感染者の治療、さらには感染者の増加に対応するための医療態勢の整備など、直接的な対策に全力を挙げております。
 加えて、県民生活や産業経済面に大変大きな影響が及んできており、まずは当面の県民生活の安定や適切な産業経済対策の実行、終息後の立て直しなど、現在、県政のあらゆる部門が新型コロナウイルス対策に没頭している状況でございます。
 ちょうどタイミング悪く人事異動期に重なりましたが、直接的な対策が必要な部門は、継続性を考慮しながら人事をしておりますので、担当者には、今日からすぐに対策に全力で当たるようにお願いします。
 また、今回の新型コロナウイルス対応は、直接間接に、ほぼ全ての部局に何らかの関連がございますので、その点について幹部職員は十分認識し、通常業務に加え新型コロナウイルス対策にしっかりと対応するようにお願いします。
 さて、今日はこのような事態ですので、各部局の業務に関する具体的な施策事業には触れず、今回の新型コロナウイルスの危機事案から見えてきました私なりの考察について触れてみたいと思います。
 しかし、決して単なる評論ではなく、捉え方により、正に体相が県政運営に深く関連し、また、少し大きく捉えますと地方のあり方、大都市部のあり方、様々な社会システムのあり方、言い換えれば日本という国のあり方に関することなのではないかと思います。
 国のあり方という点では、東日本大震災や近年の超大型台風の発生、局地的な大豪雨という、地球温暖化に派生するとみなされる異常気象に対し、災害対策の強化に視点を置いた国土強靭化、原発大事故による電気エネルギーの供給源の見直しなどがあります。
 今回の新型コロナウイルスの事案により、また別の視点からの問題提起がなされているということができるのではないかと思います。
 細かく例を挙げればきりがなく、ここでは我々自身の反省も含め、何点か主要な事柄を挙げてみたいと思います。

 まず、第1点目に、製造業のサプライチェーンを通しての課題であります。
国際競争の中で、仕方がないとはいえ、これまで安い労働力を求めてサプライチェーンを海外に求め、企業経営としては妥当なことであっても、その結果、国内の空洞化を招き、非正規雇用者の増加、雇用所得の低迷、ひいては貧困問題の顕在化などを引き起こしました。しかし、今回の事態で最も困っているのは、サプライチェーンを海外に展開し過ぎた企業であります。そのような中で一定の国内生産の必要性の認識が生まれ、リスク回避のため、再び国内回帰の動きも一部に見られるようになっております。やはり国際協調という言葉とは裏腹に、国というものは、また、民族という生物学的概念が存在する限り、全ての国や民族は、最後には自国、自国民族が優先という立場に立つものである。国際協調を目指しつつも、一方では国際関係とは極めて厳しいのが常識である基本認識を改めて頭に入れておくべきではないかと思います。今回の事案では、この点について我が国政府と国民の甘さが垣間見えたような気がします。

 2点目として、インバウンド政策です。
我が国の人口減少、国内の消費力の低下という中で海外からの観光客の誘致、いわゆるクールジャパン、国を挙げてのインバウンド政策を進めてまいりました。タイの観光大臣や台湾の観光関係幹部から新型コロナウイルスの終息後には、再び観光交流を活性化させましょうという連絡をもらっており、決してインバウンド政策を否定するものではなく、私もトップセールスを繰り返し、力を入れてまいります。しかし、常々これだけで地域振興ができるものかという、いささか疑問を抱いておったことは事実で、同時に、地に着いたものづくり産業や農林水産業、情報産業の振興にも力を入れるとともに、インバウンドも単一国にのみ集中しないよう、また、あえて前のめりに進めないようにしてきたつもりであります。もちろん現在、県内の観光産業もインバウンドの急激な落ち込みで苦境の中にありますが、西日本を中心に流れに乗りすぎ、のめり込みすぎた地域は悲惨な状況でございます。数を競うことに重点を置きすぎたインバウンド政策の最も弱い面が今回の事案により表面化したものといえるのではないでしょうか。

 3点目として、効率重視の医療政策です。
当然に人口減少の中で、これまでどおり医療施設を維持していくことは無理がありますし、一定の再編等は必要でございます。しかし、イタリアのように医療資源を急激に縮小させたため、ウイルスの発症源とされる中国以上の事態に陥っている例からも、医療資源の再編等には極めて慎重であるべきということを教訓とすべきであります。
 今一つ、確率統計学的には、感染確率は人口に比例するのではなく、人口に相乗的に比例するという当たり前のことが無視されているということであります。その視点から見れば、本県の二次医療圏ごとの感染病棟数も全く学理的には設定されてございません。いずれ財政的な見地もあり、すぐにはできないでしょうが、もう少し疫学的見地に数理学的見地を加味したものにすべきではないかと思います。
 一定の人口当たりの単位数を設定し、地域ごとの人口を相乗的に捉えて感染病棟数を進めるのが確率統計学からは当り前のことであります。あくまで私の一考察で、当たっているかどうかは定かではないことを前提に計算しますと、例えば人口密度という補正パラメーターを無視して単純に計算すれば、人口が2倍になれば感染病床数は4倍になるということであります。本県は当初30床ですが、東京都の人口を10倍と仮定すれば10の二乗、100倍の3000床が東京には必要であったということにもなります。今、東京は500床だそうで、小池知事が臨時的に4000床に増やすといっております。人口密度や街の混雑度からいえば妥当な数と思います。ただ、今後さらに事態が悪くなった場合には、それでも足りないような気がしますが、そうならずに終息することを願うばかりです。

 4点目として、日本人は自分で正確な情報を得て、自分の頭で考えて行動するという本能的人間力が低下しているのではないかという疑問であります。
 確かに学力、知識は向上しているとは思いますが、他人任せ、行政任せのような傾向が強くなっているように思います。人のいうことには耳を傾け、様々な情報を得ながら分析し、最後は自分の考えと責任で判断するということが本来の姿ではないかと思いますが、自らの頭をフルに使う習慣が失われてきたことに危惧を、危機感を覚えております。
 特にインターネット、SNSなど、情報化社会とはいうけれども、情報に対し受け身になっている傾向にあるように思います。また、SNSの発信内容を見ますと、生半可な知識と又聞き、基礎知識不足のものが多いことに危惧を覚えることが多くなりました。情報機器の扱いは上手でも、基礎学力、基礎知識の不足は、社会を混乱させることにもつながります。一例が「中国からトイレットペーパーを輸入しているので、もうじきなくなる」というSNSの書き込みを発端に、瞬く間に全国に拡散し、秋田でもスーパーの棚からトイレットペーパーが一時消えたことです。しかし、ネットで少し調べれば、トイレットペーパーは、ほぼ国産ということはすぐわかりますし、少し前までは中国は紙類の大量の輸入国であります。SNSは駆使するが、同じスマホのネットで内容を調べようとしない、明らかに頭の空洞化というべきで、日本の将来が思いやられます。

 最後に、東京一極集中の危険性です。
 人口密度が一定以上になるということは、全ての種類の危機が増幅され、打つ手がなくなるということです。政治経済をはじめ、社会運営のほぼあらゆる機能が東京に集中していることは、大災害のみならず今回のような感染病の蔓延に際しても、もしも中枢機能を担う人々が感染し倒れるようなことになれば、全国の社会機能が大混乱するということにもつながります。正に地方創生は、国家の安全保障対策といっても過言ではないでしょう。自動車や航空機など直接命を預けるもののみならず、社会的基盤、基礎インフラでも、フェールセーフという万が一のときへ対応できるよう、補正機能が働くように設計されていますし、完全に故障した場合には予備の機能が働くよう、安全対策のため中央機能は二系統となっております。首都機能の分散、地方都市の機能強化が国家百年の大計ということを今こそ認識し、真の意味の地方創生を進めるべきではないかと思います。要は、何事も『過ぎたるは猶及ばざるが如し』ということではないかと思います。

 最後に、人事異動に伴う事務引継ぎをしっかりと行い、通常業務は遅滞なく進めていただくとともに、特に県民の命と暮らしを守るため、全庁挙げて新型コロナウイルス対策に当たっていただくように希望します。
終息の時期も見通せませんし、場合によっては政府から法に基づく緊急事態宣言が発令されることも想定されます。たとえ本県が地域指定にならない場合でも、首都圏が指定されれば、直接間接に本県としても様々な対応が必要になります。近々の緊急事態宣言の発令もあり得ることで、各部局に対し、その対応について事前に検討しておくことを強く指示します。
 また、現在、本県内での二次感染事例はなく、外から入ってきたものによる感染が主体であることから、特に県境対策が重要です。この点に関し、住民の県内移入や規制を一定程度把握できます市町村と連携し、県内入りした後のしばらくの間の活動自粛を強く求めることや、お膝元の県施設への訪問者への対応、例えば感染拡大地域からの訪問者については、緊急の場合を除き、当面ご遠慮いただくとか、移入者への健康チェックなども必要になることも想定されます。
 また、各市町村の水道や下水道などライフラインは止めることはできず、さらには新型コロナウイルスの渦中においても、いつ災害が勃発するかもわかりません。医療・福祉施設現場はもちろんなことですが、ライフライン関係者、消防防災の関係者、建設業者も含め、災害対策部門関係者での感染防止対策について十分に注意を払っていただくようにお願いします。
 加えて、先日、国内大手スーパーの幹部から、首都圏を中心に食料の買い占め傾向となる中で輸入食品も国境の封鎖の関係で入りにくくなっており、国内生産農家が新型コロナウイルスの関係で生産しにくくなることや物流システムも防止対策のため、動きが鈍くなっており、今後さらに蔓延するような事態になれば、首都圏を中心に食料供給の問題も出てくる可能性があるとの話を聞いております。農林水産部を中心に、この点についても十分に実態をフォローしておいてください。
 基本は、最悪の事態を想定し、遠慮や躊躇なしに、冷静、冷徹に事を進めるのが緊急事態の鉄則です。
また、全国知事会を通じて再三再四、国には有効な手段をスピーディーにと具体的な提言をしておりますが、なかなか踏ん切りがつかず、苛立っている国民が多いことと思います。しかし、国の動きは動きとして、県としてできることは、タイミングよくやる必要がございます。そのような中で、まずは一刻も早くワクチンや有効な治療薬が開発されることを切に願うばかりです。
 もう一つ、今回の事態で私は秋田の基本的優位性が頭に浮かんでおります。人間の生活に必要な多くのものを我々は持っております。今回は未知の感染症ですが、もしも海外において食料生産を阻害するようなことが勃発した場合に、特に農業県秋田は、正に国家安全保障の礎になるということになりますし、多様で豊富なエネルギー資源、正常な水資源も貴重です。秋田に生き、秋田を守り、秋田を前に進めることに誇りを持って臨みたいものです。
 しかし、残念ながら先日、管理職にある職員が、誠に恥しい罪を犯してしまいました。県民の皆様が新型コロナウイルスで心配している最中、誠に申し訳なく思っております。分別のある年代での不祥事に心を痛めるばかりです。
 皆さんの肩には、県民の信頼と期待が大きくかかっているということを常々認識し、令和2年度、正に波乱の幕開けで、今後、世界的にも、我が国全体も、そして我が秋田県も、どういう事態になるのか予測し難い状況ですが、まずは県民の安全・安心のため、今そこにある新型コロナウイルスとの戦いに果敢に挑みつつ、終息が見え始めたときには一気呵成に県政を前進させるための準備を怠らず仕事に当たっていただくよう強く希望し、年度始めの挨拶といたします。
 異例の年度始めとなりましたが、自らの所属部門の職員の健康には十分に留意し、しっかりと仕事を進めていただきたいと思います。よろしくお願いします。
 終わります。