和名:マコガレイ

学名:Pseudopleuronectes yokohamae

体長:163mm、全長:196mm

2010年8月26日に、県漁協船川総括支所から「裏表とも白いクロモトが獲れたから見てけれー」と連絡がありました。「クロモト」とは秋田でマコガレイのことです。このカレイを捕えた船川港女川の漁業者、伊藤義友さんによると、船川沖水深78~98mにて「アマダイ漕ぎ刺し網」にかかったとのこと。「このような体色異常はヒラメでは見かけるが、クロモトでは初めて」とのお話でした。

マコガレイはふつう、有眼側は緑褐色、無眼側は白一色ですが、このマコガレイは有眼側、無眼側ともにほぼ真っ白(図1,2)で、本来の色素があるのは両眼と口の周りだけでした。漁協の方々も「こりゃクロモトでねー、シロモトだー」と…。

さて、この体色異常はいったいどういうことでしょうか?魚体に触ってみると、ふつう有眼側はザラザラ、無眼側はヌルヌルした手触りなのに、この個体は有眼側も無眼側もヌルヌルしており、かろうじて眼の周りだけがザラザラしています。魚の手触りは鱗や粘液細胞など表皮の構造によりますから、無眼側、有眼側の白い部位と眼の周りの3か所から鱗を採取し、顕微鏡で観察しました。

カレイ類の表皮は一般的に、有眼側には小棘のある細かな鱗(櫛鱗;しつりん)と色素が、無眼側には棘のないやや大型の丸い鱗(円鱗)が分化します。ところが、この個体は無眼側と有眼側の白い部位には円鱗(図3,4)が、有眼側の眼と口の周りには櫛鱗(図5)が分布していました。何らかの理由で、有眼側と無眼側の表皮の分化が正常に進まなかったと考えられます。

それにしても、黒褐色の砂泥底で「白一点」のこのカレイはさぞかし目立っていたことでしょうに、この大きさ(生後2年以上)まで他の生物に食べられることなく生き延びたのは実に見事です。

写真:体色異常のマコガレイ1
図1 船川沖で漁獲された体色異常のマコガレイ(有眼側)
写真:体色異常のマコガレイ2
図2 船川沖で漁獲された体色異常のマコガレイ
写真:鱗の顕微鏡写真1
図3 無眼側の鱗(円鱗)
写真:鱗の顕微鏡写真2
図4 有眼側の白色部の鱗(円鱗)
写真:鱗の顕微鏡写真3
図5 有眼側の有色部(口と眼の回り)の鱗(櫛鱗)