写真:戸平川遺跡出土品
戸平川遺跡出土品

 戸平川遺跡は、秋田市添川字戸平川に所在する縄文時代晩期(今から3,000~2,300年前)の墓域です。
平成7(1995)年~平成8(1996)年に発掘調査が行われた結果、丘陵の裾野上に土坑墓87基と掘立柱建物跡3棟、東側の谷に捨て場が発見され、300,000点以上の遺物が出土しました。
 本出土品は、墓域から出土した縄文時代晩期の漆製品、漆工にかかわる用具、木製品です。
 漆製品には、籃胎(らんたい)漆器、漆塗り土器、弓、竪櫛(たてぐし)、腕輪、耳飾り、土偶(どぐう)、岩版(がんばん)があり、漆液を濾過した生漆(きうるし)と、ベンガラ粉を混ぜて赤く着色した赤漆の二種が使い分けられています。
 籃胎漆器は、一本越え一本送りの網代(あじろ)編みで編まれた籠を赤漆で塗り固めたもので、ほぼ原形で出土しまし。漆塗り土器は、器面を削って滑らかに仕上げてから漆が塗布されており、浅鉢形土器、鉢形土器、壺形土器、注口土器の各器種があります。生漆が塗られた土器は、土器自体の黒みがかった色が鮮やかに際だっており、赤漆が塗られた土器は、光沢のある赤色を呈しています。また、赤と黒の二色を用いて彩文が描かれた浅鉢形土器もあります。
 このほか、全面に生漆が薄く塗られた弓、赤漆による装飾が施された木製の竪櫛と腕輪、土製の耳飾り、土偶、岩版があります。
 漆工にかかわる用具は、ベンガラを擦りつぶすための石皿と磨石、ベンガラ粉を貯蔵するための壺形土器、漆容器として用いられた鉢形土器と壺形土器です。
 漆製品以外の木製品には、樹皮製の曲げ物、もじり編みで編まれた籠の断片、数本の枝を絡み合わせて腕輪状に仕上げた木製品があります。さらに、斧による加工痕や組み穴がある加工材、柄がついた木篦(きべら)、頭部を削り出した棒状木製品もあります。
 本出土品は、捨て場が湿地であったために、通常であれば劣化や腐朽により失われやすい漆製品と木製品がまとまって遺存していたもので、本県における縄文時代晩期の漆工・木工技術がわかる資料として学術的に価値があります。
 さらに、漆塗り土器には、漆がもつ独特の光沢によって、赤と黒の対照的な色彩効果を強調する意図が感じとられます。これらが墓域の出土品であることから、本出土品は、葬送儀礼に伴う祭祀行為に用いられたものであり、当時の人々の色彩感覚と葬送にかかわる観念の一端をうかがい知ることができる資料としても、きわめて貴重です。

参考文献

『秋田県文化財調査報告書第294集 戸平川遺跡—東北横断自動車道秋田線建設事業に係る埋蔵文化財発掘調査報告書ⅩⅩⅣ—』 
平成12(2000)年3月 秋田県教育委員会