研究報告第21号概要

2015年01月07日 | コンテンツ番号 9153

秋田県果樹試験場研究報告(1990)第21号 1-56

リンゴの早期生理落果に関する研究
落果の機構解析とその制御について

近藤 悟

摘要

 リンゴの早期落果現象を解析するに当たって、外的な環境面では、気象要因及び栽培管理を中心として、一方、生理的な面では、内生生長調節物質であるエチレン、オーキシン、ジベレリン及びサイトカイニンの消長やこれら物質の外生的処理による果実発育に及ぼす影響を調査することによって、早期落果との関わりを検討した。

  1. ‘スターキング・デリシャス’を中心に‘陸奥’、‘レッドゴールド’などに異常に多く早期落果が発生した1978年は、満開36日後以降に落果が多発した。その年の気象状況は満開31日後以降、最高及び最低気温が平年より高く経過し、また満開27~38日後に日照時間が少なく降水量の多かったことが特徴としてあげられる。一方、1979年から1985年までの早期落果率は満開30日前後の気象条件と関係が深く、なかでも満開28~34日後の最低気温、日照時間及び降水量から早期落果率を回帰する重回帰式が得られた。これらより、特に最低気温が高く日照時間が少ないと落果を助長することが明らかとなった。
     個々の樹に対する栽培管理と落果率との関係については、頂端新しょうの伸長量の定期的な測定と葉内無機成分の分析により樹の樹勢を知る手段とし、樹勢が強過ぎたり、また逆に弱過ぎても落果が助長され、新しょう伸長量と密接に関係していた。このことは強せん定を行った樹についても観察され、強せん定は新しょう伸長を旺盛にし落果を増加させた。
  2. 時期別に4日間ずつ同時間行った夜間の高温処理は、果実肥大及び新しょう伸長を増加させた。しかしながら、満開27日後、34日後からの処理は落果を増加させ、特に満開27日後からの処理の影響が大きかった。一方、同様に時期別に4日間ずつ行った遮光処理は、満開20日後、27日後、及び34日後からの処理が落果を誘発し、処理開始とともに果実肥大を抑制した。果実当たりの糖含量は、遮光処理下の果実、肥大の停止した果実及び果梗の黄変した果実で低かった。
     果実当たりのエチレン発生量及び呼吸量は、発育段階が早いほど、また温度が高いほど多くなった。エチレン発生抑制剤であるAVGの散布は果実からのエチレン発生を抑制し、夜間の高温処理下では落果率を減少させた。しかしながら、遮光処理下ではその効果は低かった。
     このようなことから、夜間の高温処理下における落果は栄養生長及び呼吸の増加により養分が消費されたことに加え、高温によるエチレン発生が落果に影響を及ぼしたものと推察される。また、遮光処理下では、果実への光合成産物の供給の減少が最も大きく影響したと考えられた。
  3. ‘つがる’、‘スターキング・デリシャス’、及び‘ふじ’の3品種につき早期落果率とエチレン発生量とを調査したところ、早期落果率は‘スターキング・デリシャス’、‘つがる’、‘ふじ’の順に高く、果実からのエチレン発生量も同様となった。
     エセフォン散布と夜間の高温条件下でのAVG散布が、種子の発育、離層部のセルラーゼ活性、落果率に及ぼす影響について調査した。エセフォン100ppm処理は散布後の日数とともに種子の発育を阻害し、徐々に落果させた。一方、AVG散布は内生エチレンの発生を低下させ、さらに種子の発育阻害、セルラーゼ活性及び落果率を減少させた。
     これらより、夜間の高温のような温度が関与する条件下では、果実中の内生エチレンレベルの上昇が種子発育を阻害し落果を発生させたと思われ、エチレン発生量の多い品種で落果率の高かったことと関連すると思われた。
  4. 満開16日後から60日後までの種子中のオーキシン様活性については、両品種で大きな差はなかった。一方、MCPBの散布は落果を抑制したが、遮光による種子の発育停止が処理直後から生じたため、果径の小さな果実が多かった。‘ふじ’でのジベレリン様物質の増加は満開23日後から始まったのに対して、‘スターキング・デリシャス’のそれは早期落果終了期の満開42日後から増加が認められた。また、GA3+GAdの散布は遮光処理による種子の発育停止にもかかわらず落果を抑制し、さらに果実肥大を促進した。このようなことから、種子中のジベレリンは落果の程度や果実発育と密接に関係していると思われた。
    ‘ふじ,における満開25日後のサイトカイニン様物質のピークは‘スターキング・デリシャス’に比べて6日早かった。このため、‘スターキング・デリシャス’でその含量が増加する以前の満開19日後にBAを散布し、その後遮光処理を行ったが、落果が促進された。この現象はBA散布後に増加の認められた果実からのエチレン発生量との関連が考えられた。
  5. 以上の実験から、リンゴの早期落果現象は極端に樹勢が強められたり、逆に弱められたりする不適切な栽培管理によって、新しょう生長と果実生長の平衡関係が乱された場合に発生することが確認され、一方、満開後ほぼ40日までの果実の発育初期においては、4日程度のごく短期間でも最低気温の高い状態が続いたり、日照が制限されると早期落果の誘発されることが明らかとなり、またエチレン、ジベレリンといった内生生長調節物質が密接に関与していることが伺われた。
     気象要因との関連では、最低気温(夜間温度)が上昇することによって、新しょうの生長が促され果実への養分供給が減少し、さらに高温によって発生するエチレンが種子の発育を阻害すること、また、日照が制限(遮光)されることによって葉で生産される同化産物が減少し、果実及び種子発育が阻害されること、これらが原因して、種子中でのジベレリンなど内生生長調節物質の生産が抑制されて落果が促進されると推察された。
     このようなことから、早期落果の減少には多肥、強せん定を避け適正な樹勢を維持することが必要なこと、またジベレリンの果実への散布が早期落果の抑制に極めて有効であることが明らかとなった。