力丸宗弘・中村隼明・高橋大希・小松恵・伊藤なつき・松原和衛・田上貴寛
秋田畜試、基生研、岩手大農、畜草研)

目的

始原生殖細胞 (PGCs) を利用した生殖系列キメラニワトリの作出法は、ニワトリ遺伝資源の保存・復元のための有効な手法である。現在、生殖系列キメラニワトリや復元された産仔の判別は、ドナーと宿主の羽色の違いを利用した後代検定が主流である。これに加えて、分子遺伝学的手法はより判別の精度を高めることが可能である。今後、比内鶏を細胞レベルで保存するために、これらの技術を確立することは極めて重要である。本研究では、比内鶏のPGCsを移植した生殖系列キメラニワトリと比内鶏ならびにキメラニワトリ同士を交配することにより比内鶏の産出を試みた。続いて、比内鶏に特異的な常染色体上のマイクロサテライトマーカーを探索し、生殖系列キメラニワトリ同士の交配より得られた産仔判別への利用性について検討した。

方法

比内鶏に固定されている常染色体上の6つのマイクロサテライトマーカーから比内鶏と白色レグホーン(WL)の識別が可能な一つのマーカーを選択した。生殖系列キメラニワトリを作出するため、秋田畜試において維持している比内鶏ならびにWLの種卵を供試した。比内鶏の初期胚の血液中あるいは生殖巣より採取したPGCsを白色レグホーン胚の血流中へ移植した。性成熟後、比内鶏と交配し、後代検定を実施した。羽色から比内鶏であると判断された後代より血液を採取し、識別マーカーを用いてDNAを解析した。次に、羽色とDNA解析結果から生殖系列キメラニワトリと判定されたキメラニワトリ同士を交配し、羽色から比内鶏であると判断された産子のDNAを解析した。さらに、産出された比内鶏個体の繁殖性能の調査を行った。

結果

雄の生殖系列キメラニワトリ2羽より得られた茶色の産仔3羽、雌の生殖系列キメラニワトリ2羽より得られた茶色の産仔116羽全てから比内鶏に特異的な遺伝子型と同一の遺伝子型のみが検出された。続いて、生殖系列キメラニワトリ同士を交配した結果、105羽の産仔のうち茶色の産子1羽が得られた。遺伝子解析の結果、この産仔の遺伝子型は比内鶏のものと完全に一致し、比内鶏に特異的な遺伝子型のみが検出された。これらの結果から、生殖系列キメラニワトリより得られた茶色の産仔は分子遺伝学的にも比内鶏であることが確認され、マイクロサテライトマーカーがより正確な個体判別に有効であることが示された。また、生殖系列キメラニワトリ同士の交配により得られた雌の比内鶏は通常の比内鶏と同等の繁殖能を有していた。本研究結果は、将来のニワトリ遺伝資源の保存・復元に資すると考えられる。