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写真:小滝温水路
上郷温水路群の一つ「小滝温水路」
(温水路群は親水の場、子どもたちの勉強の場としても貴重な施設となっている)

秋田県由利郡象潟町の上郷地区では昔から鳥海山の冷たい雪どけ水をかけて米づくりをしており、長い間冷たい水に悩まされていました。
大正時代の終わりごろ、地域上流に発電所建設の話があり、その補償金を雪どけ水を温めることに使おうと地域のみんなで話し合い、日本で最初の温水路を作ることにしました。
以来、集落の人たちの賦役(ふえき)により、それぞれの集落から大勢の人々が出て、長岡・大森・水岡・小滝・象潟の五つの温水路を作りました。今のように機械(バックホウやブルドーザ)が無い時代に、全て人の力で、スコップ、クワ、もっこ等を使った大変な仕事でした。
昭和2年から始まった工事は、昭和35年まで、5路線、総延長6kmに及ぶ大事業となりました。
温水の効果やほ場整備事業等(栽培技術も進歩)により、以前は10アール当たり300kgだった収量は600kgも収穫できるようになりました。

上郷温水路群は、「疏水百選」に選定 (農林水産省 2006.1.27)されました

象潟町上郷地区温水路群

写真:土木学会選奨土木遺産2003 プレートを撮影したもの

象潟町の「上郷温水路群」は、鳥海山からの融雪水による冷水害対策として、水路幅を広く、水深を浅くし、落差工を連続させた日本で初めての温水路として、平成15年、「日本土木学会選奨土木遺産2003」に認定されています。

拡大写真(クリック)
写真:長岡温水路
長岡温水路
写真:大森温水路
大森温水路
写真:水岡温水路
水岡温水路
写真:小滝温水路
小滝温水路
写真:象潟温水路
象潟温水路

図:上郷地区温水路群模式図

上郷地区温水路

いつ頃の工事か?

表:上郷温水路の諸元表

  1. 昭和26年以降は上郷農協組合が県より工事委託を受け、実施、完了したもの。(県営冷水温障害防止施設事業)
  2. 昭和26年の小滝(第1)温水路は昭和18年施工の上流部
  3. 昭和28年の大森温水路は昭和4年施工の改修を含む
  4. 昭和28から30年の長岡温水路は昭和2年の水路を改修
  5. 昭和31年の水岡温水路は昭和12年施工の上流部
  6. 昭和32年の小滝(第2)温水路は昭和26年施工の上流部

だれが考えついたのか?

発電所と温水路

大正時代の終わりころ、東北配電(現在の東北電力)という会社で発電所建設の話があり、佐々木順治郎(ささきじゅんじろう)をはじめとする長岡の代表者たちが、発電所建設の補償金を鳥海山からの雪どけ水を温めることに使うことを考えました。そして、自分たちで研究して最初の温水路を作ることになりました。

注)温水路を設計し施工監督にあたった佐々木順治郎氏の話し(当時長岡集落理事者)

研究した訳でもなく、また、参考にする先例も知らなかったが、従来の経験から水路の幅を広くし、水深を浅くし、緩流にし、更に多くの落差工を設け水をもむ(攪乱すること)ようにすれば、水温は上昇するものと考えた。

どのようにして工事したのか?

工事の期間

田んぼの水がなくなってから、翌年の春までの期間(真冬は休み)

段々はどうやって作ったか

温水路の場所はなだらかな傾斜地で作りやすかったようです。

石や砂はどこから持ってきたか

  • 付近にはたくさんの石があったので、その石を使いました。
  • コンクリートに使う砂は、冬に「馬そり」を使って象潟の浜から運びました。

どれくらいの人が仕事をしたか

  • 毎日50人から60人ぐらい、各集落の人たちが、みんな出て仕事をしました。
  • 「賦役(ふえき)」という制度

注)「賦役」・・・・労働力を提供してもらうこと
共同の仕事をするときに、他の人に仕事を頼むとお金を払わなければならないのでできることは自分たちでやろうという制度

温水路落差工 標準断面図

図:落差工断面図

水温上昇効果

水温上昇効果 No.1

昭和25年(岩手大学、前川・林両教授の実測結果)

水温上昇度:1.5 ℃~8.5 ℃(7月29日~31日)

表:水温調査データ1

注)水岡温水路は、途中ため池があり、上流水路取水地点から下流水路出口地点までの上昇度である。

小滝温水路について、上郷農協で実測した水温(昭和29年から昭和31年)

  • 取入口水温:10.7 ℃
  • 温水路:15.5 ℃
  • 耕地:18.5 ℃

水温上昇効果 No.2

昭和52年(岩手大学、佐藤・青木両教授の実測結果)

水温上昇度:2.00℃~7.9℃(7月27日~8月2日)

表:水温調査データ2

注)水岡温水路は、途中ため池があり、上流水路取水地点から下流水路出口地点までの上昇度である。

資料:「秋田県土地改良史:昭和60年4月」(秋田県土地改良事業団体連合会発行)より

当時の工事のようす

段づくり(落差工)のようす

写真:段づくりの様子

左右の石積護岸と水路落差工部の石積み

  • 夏の間に水路に積む石を造りました

丁張りで高さ、幅を確認する

写真:丁張り確認の様子

冬には寒くて細かい仕事ができないので除雪しながら水路部分の土を掘りました

落差工上流、石による埋め戻し

写真:落差工上流部石の埋め戻しの様子

  • 付近には材料となる石が沢山ありました
  • コンクリートに使う砂は冬に「馬ソリ」を使って象潟の浜から運びました
  • 春の天気の良いときに並べた石の間にコンクリートを打ちました

正面下流から見た落差工

雪の残る時期の完成姿

写真:正面下流からの落差工
(水岡温水路)
写真:大森温水路前で記念撮影
温水路で記念撮影する人々(大森温水路)
写真:温水路づくりに働いた人々(水岡温水路)
温水路づくりに働いた人々(水岡温水路)
※)最前列中央のネクタイ姿が写真提供の斎藤要治氏

記事作成年月 平成17年9月
取材協力・資料提供:水土里ネット象潟(象潟町土地改良区)、象潟町
写真提供(施工当時の写真):象潟町 斎藤要治氏(故人)
参考文献、図書:「秋田県土地改良史:昭和60年4月」(秋田県土地改良事業団体連合会発行)
秋田県営冷水温障害防止施設事業上郷温水施設事業計画概要書」ほか

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取材編集:秋田県由利地域振興局農林部農村整備課
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