天狗にあこがれた太右衛門(鹿角の伝説)

2009年12月17日 | コンテンツ番号 312

天狗にあこがれた太右衛門

 鹿角市の夜明島渓谷は、大きな滝や切り立った岩、不思議な形の岩などがあり、沢が深く昼でも薄暗いところもある美しい渓谷である。

 昔、夜明島渓谷には天狗が住んでいると言われていた。

 今から400年ほど前、大石太右衛門(おおいしたうえもん)という、体が大きくて力が強く、近所でも評判のたくましい男がいた。彼は、若いころからいつかは武者奉行して立派な武士になりたい思い続けていた。

 そして、40才も過ぎたある年の夏、彼は、「夜明島の天狗のところで修行をして神通力をもった立派な武士になる」という決意を村人に告げて、家を出て行った。

 太右衛門が夜明島の渓流に沿ってしばらく行くと、空に向かって高く切り立っている千丈幕(せんじょうまく)という岩にたどり着いた。岩の上からは水が勢いよく落ちてきており、その滝の水しぶきに日光が当たり、きれいな虹が見えてあった。その滝は、“止まり滝”という滝であり、太右衛門は、滝に向かって「南無八幡大菩薩、われに神通力を授けたまえ」と手を合わせ、一生懸命お祈りした。しばらくすると、滝の大きな音は急に静かになり、滝が優しい声で「私は女滝です。せっかく頼まれましたが、あなたの願いをかなえることはできません。ゆるしてください。」と言った。太右衛門は、がっかりしてしまったが、それならもっと奥の方まで行こうと思い、岩や滝壺に足を滑らせながらも脇を通って岩をやっとのことでよじ登り、奥へ奥へと進んで行った。

 しばらくすると、高さ約100メートルもある夜明島渓谷ではいちばんりっぱな“茶釜の滝”にぶつかった。太右衛門は、その前に立ち、前と同様に手を合わせ目をつむって一生懸命祈った。すると、滝の音が声に変わり、「わしは、いかにも男滝だが、年老いてしまって、お前の頼みを聞いてやることができない。許してくれ。」と言った。太右衛門は、その言葉を聞くや体から力が抜け、がっかりしてしまった。しかたなく、疲れている足を引きずるように滝を後に元来た道をもどった。夜明島のトッチャカ森というところまでもどると、体も疲れて苦しくなり倒れてしまった。

 「神様にお願いし修行して、りっぱな強い武士になろうとしたが、聞いてもらえないようだ。夜明島に天狗が居るなんて嘘だったのか。」と悔しがった。そのとき、どうしたはずみか、屁が一発出てしまった。その屁はとても大きな音で、夜明島の沢いっぱいに響くほどであった。太右衛門は、「何と、俺からこんなに力強い屁が出るということは、まだ俺の力もたいしたものだ。もう一度滝に戻って頼んでみよう。」と、全身の力をふりしぼり、茶釜の滝へ戻ると、それからは何日間も昼夜休まず、お祈りやお願いをし続けた。しばらくしたある月明かりの晩、滝が、「太右衛門、それほどまでの頼みならば、わが神通力の一端を授けてあげよう。われに付いて来い。」と言った瞬間、滝の化身となって天狗が現れた。

 太右衛門は喜んで天狗の後について行き、毎日、天狗の道場で血の出るような厳しい修練を続けた。何年も修行を続け、ついに太右衛門は、苦しい修練がかない、十間(約18メートル)も離れているハネ石やトビ石をみごとに跳びはねることができるようになったとのことである。