食中毒の原因は、「細菌」、「ウイルス」、「寄生虫」、「化学物質」、「自然毒」など様々ありますが、発生件数の7割以上が病原性微生物(細菌やウイルス)によるものです。
 病原性微生物による食中毒では、食品の「二次汚染」が原因となった事例が多数あります。
 食品の「二次汚染」について、少し解説したいと思います。

1.食品の汚染

 私たちは普段、食品を調理する際、野菜、食肉、魚介類などの様々な食材を取り扱いますが、野菜や魚介類は収穫や捕獲した時点では、自然のままで、まだ洗浄等していませんので、食品としては汚染されている状態と言えます。
 海にすんでいる魚介類は海水中に、畑で栽培している根菜類は土壌中でそれぞれ生育していますので、洗浄等の前処理をしないそのままの状態では、衛生上は、調理に適しているとは言えません。

2.一次汚染

 食中毒の原因となる病原性微生物は、海水や土などと一緒にこれらの原材料等に付着しており、この汚染が『一次汚染』といわれるものです。
 例えば、海水中に生息している腸炎ビブリオ菌は、魚介類の表面に付着していますので、その魚介類は一次汚染されている状態です。

3.二次汚染

 一次汚染に対して、病原微生物が付着して汚染されている食品を細切することなどでその時使用したまな板(調理器具等)が汚染され、この汚染されたまな板を使用して切った野菜が二次的に汚染されてしまうものが食品の『二次汚染』といわれるものです。
 二次汚染には、汚染している食品に直接接触して他の食品を汚染してしまう場合や、原材料を取り扱うまな板や包丁、調理に使用する菜箸やトングなどの調理器具の他、食品取扱者の手指を介して食品への二次的汚染が起こる場合もあります。

【二次汚染が原因の食中毒例】  ❝ちょっと意外だった事例❞

 これまでに発生した腸炎ビブリオ食中毒に、きゅうりの漬物が原因食品となったものがあります。それまで経験した事例では、腸炎ビブリオ菌は、刺身等の魚介類から検出されることが多く、一見、腸炎ビブリオ菌と漬物は結びつかないように思えた事例ですが、取り扱った魚介類の腸炎ビブリオ菌が、まな板や包丁、調理用ふきん、食品取扱者の手指など様々な汚染を通じてきゅうりの二次汚染が起きたと考えられた事例でした。

 食品の二次汚染を起こす汚染経路は、大きく次の3パターンですが、単一の汚染経路に限らず、それらの様々な組み合わせで汚染が広がるものと考えられます。

①調理器具を介した食品の二次汚染
 「原材料」 → 「調理器具」 → 「食品」への汚染拡大

(例)まな板の使い分けをせず、洗浄・消毒しないまま同じまな板で、原材料の処理や細切(食肉、鮮魚介類、野菜の細切など)を行ったり、完成品(ローストビーフ、卵焼きなどの惣菜)を切ったりした場合など。

 

②調理従事者の手指を介した食品の二次汚染
 「原材料」 → 「手指」 → 「食品」への汚染拡大

(例)1本ままの鮮魚を取り扱った手指を洗浄・消毒しないまま、刺身の調理を行ったり、つまの盛り付けをしたりした場合など。

 

③調理器具を介した二次汚染食品等からの汚染(三次汚染)
 「食品」 → 「調理器具」 → 「食品」への汚染拡大

(例)トングや箸で生肉を取り扱った後に、同じトングや箸で焼きあがった肉を取り皿に取ったり、生野菜を取り分けたりした場合など。(焼肉店などでしばしば起きる。)

 

4.二次汚染の防止

 細菌やウイルスなどの微生物は目に見えませんので、食品への二次汚染を防止するためには、調理(製造)工程の各段階での徹底した衛生管理が求められます。
 もちろん、調理(製造)工程の衛生管理に先立つ前段階での衛生管理(※)が、前提となります。

(※)前段階での衛生管理「原材料以外はすべて清潔」

   〇 施設設備の衛生・・・清潔な施設、清潔な設備
   〇 器具機材の衛生・・・清潔な器具機材
   〇従事者の衛生・・・・従事者の健康管理、清潔な服装、手洗いの徹底
   〇使用水の衛生・・・・安全確認


 具体的には次の対策が必要となります。

 (1)調理室(製造室)内への持ち込みを減らす

 二次汚染は、原材料に付着して調理(製造)室内に持ち込まれた微生物が、調理用器具・機材や調理従事者の手指に接触して拡散することで起こりますので、原材料に付着している病原微生物を洗浄等により可能な限り洗い流す(除去する)ことで調理(製造)室内に持ち込む量を減らしたり、なくすことが食中毒予防には有効です。
 特に、生鮮魚介類や食肉、野菜等は、すでに汚染しているものと考えて、必要な下処理(前処理)を丁寧に行います。
 生鮮魚介類や野菜などの下処理を専用の下処理室等で行うことは、微生物を調理(製造)室内に持ち込まない方法として大変有効です。

(2)調理器具等による汚染拡大を阻止する

 一旦、調理室(製造室)に持ち込まれてしまった微生物による汚染を室内に広げないよう、まな板や包丁は、「野菜用」「魚介類用」「食肉用」「完成品用(惣菜用)」などに使い分けし、汚染が想定される原材料を原因とする食材の相互汚染の機会を減らします。
 また、汚染が想定される原材料を取り扱う場合には、その都度、使用したまな板、包丁の洗浄・消毒を徹底して行います。
 なお、可能ならまな板や包丁を用途に応じて色分けしておけば、誤って別用途のものを使用することで起こる二次汚染を回避することができます。

(3)手指を介する汚染拡大を阻止する

 調理作業前、トイレ使用後の手洗い消毒の徹底とともに、汚染が想定される原材料(鮮魚介類、食肉等)の取扱い後、また、調理作業中に汚染物に触れてしまった後などの適切なタイミングで手指の洗浄消毒を行います。

※万が一持ち込まれた病原微生物が施設内に定着したり増えたりしないように、日頃から施設内や調理器具・機材等を清潔に保つことも、広範囲な汚染拡大を阻止するためにも大切です。

 

「食品の二次汚染防止」には

病原微生物を施設内に持ち込まない!

持ち込んでしまった病原微生物を施設内で広げない!!