第2期計画では、「ヤマトシジミやセタシジミ等の生息・生育条件の調査研究を行うとともに、シジミ等による水質浄化対策について実証規模での検証を行い、増殖方法の検討や稚貝の放流等を実施する」こととしている。

 平成24~25年度の八郎湖でのシジミの年間漁獲量は、セタシジミが150kg程度で採取場所も限られていることから、まず、平成25年度にヤマトシジミを湖内に持ち込んで生育調査を行ったところ、そのほとんどがコイの食害を受け、湖に直接放流は難しいことが分かった。

 そこで、平成26~28年度に湖内において、ヤマトシジミの持ち込み放流及びセタシジミの湖内移転による生育調査を実施した。その概要は以下のとおりである。

1 消波工内試験

 平成25年度調査ではコイの食害の影響が大きかったことから、コイの侵入を回避するため、過年度に造成した石積み等の牡丹川河口消波工および夜叉袋消波工(下図参照)の中で直接放流、カゴ飼育などの生育環境を変えて試験した。
八郎湖の図面

 
(1)直接投入試験(H26~H28)

①試験方法

 各試験区にヤマトシジミ又はセタシジミを直接投入し、月1回、各100個採取し生残率を測定した後、再度試験区内に戻す。
  ・ヤマトシジミ:青森県小川原湖産(平均殻長20mm程度)
       ・セタシジミ :八郎湖産(平均殻長38mm程度)

②試験場所

 ・牡丹川河口消波工 No.4、No.5、No.6  いずれも 幅20m×長さ13m 天端高EL+1.1m

 
 牡丹川 直接投入調査地点位置 図面

 牡丹川調査地点 写真
No.4写真

  ・夜叉袋消波工 No.1、No.2、No.4    いずれも  幅10m×長さ20m 天端高EL+1.3m

夜叉袋 直接投入調査地点位置 図面

夜叉袋調査地点 写真
No.2写真

 ③試験期間

場所 種類 H26 H27 H28
牡丹川河口 ヤマトシジミ H26.7~H26.8
セタシジミ H26.7~H28.11
夜叉袋 ヤマトシジミ H26.7~H26.8
セタシジミ H27.6~H28.9

 ④H26.7投入分の種類及び投入量

場所 消波工番号 種類 投入量(kg)
牡丹川河口 No.4 ヤマトシジミ 200
No.5 ヤマトシジミ 100
No.6 セタシジミ 50
夜叉袋 No.1 ヤマトシジミ 150
No.2 ヤマトシジミ 100
No.4 セタシジミ 50

⑤H27.6投入分の種類及び投入量

場所 消波工番号 種類 投入量(kg)
夜叉袋 No.2 セタシジミ 30

 ⑥結果

イ)ヤマトシジミ
・夜叉袋消波工は、逆L字型で一辺が開放型のためコイの進入防止網を設置したが、H26.8の調査でコイの食害により全滅を確認。
・牡丹川消波工は、コの字の閉鎖型のためコイの食害は無かったが、H26.8の調査でほぼ全滅を確認。これは底泥や水温の影響と推察された。
・ヤマトシジミの直接投入試験は、この時点で終了した。
コイの食害による貝殻残骸 写真
 夜叉袋2区のコイの食害による貝殻残骸

ロ)セタシジミ
・牡丹川消波工のセタシジミは、H26.7投入分はコイの食害を受けず、生残率はH26.10時点で91%、1年後のH27.6には74%、2年後のH28.11には42%だった。
・H27.6投入の夜叉袋消波工のセタシジミは、1年後のH28.9には生残率76%で、牡丹川の1年後と同程度だった。なお、当該セタシジミの一部をH28.10に水質浄化試験用に採取したため、以後の測定はない。
・セタシジミは、サイズが大きいためコイの食害は受けないが、2年後の生残率は約4割程度となることが確認された。

セタシジミ直接投入生存率 表

(2)カニかご生育試験(H26)

①試験方法

 コイの食害防止のために、シジミをカニかごに入れて各消波工に設置して、10月、11月、3月に生残率、体長組成を調査。
試験方法説明写真

②試験場所

 直接投入試験と同じ消波工を使用。

③試験期間

 H26.7投入~H27.3

④種類及び投入量

場所 消波工番号 種類 かご内投入個体数
牡丹川河口 No.4 ヤマトシジミ 100個
No.5 ヤマトシジミ 100個
No.6 セタシジミ 50個
夜叉袋 No.1 ヤマトシジミ 100個
No.2 ヤマトシジミ 100個
No.4 ヤマトシジミ 100個

⑤結果

イ)ヤマトシジミ
・牡丹川消波工(No4、No5)では、10月には1~5%となり、継続調査のために同月に再投入(100個体)した結果、3月時点の生残率は63~74%だった。
・夜叉袋消波工(No1、No2、No4)では、牡丹川と同様に10月時点で1~29%と低下し、1%となった1区は継続調査のために同月に再投入(100個体)した結果、3月時点で生残率は68%で牡丹川の再投入分と同様だった。No2とNo4は3月時点で生残率2~3%だった。
・初期投入分の生残率が急激に低下したことは、輸送段階での活力低下や湖内水温が高い時期に投入したことによるストレスや底質などの影響が推察された。
・10月再投入分は1週間ほどの馴致期間を確保したことが生残率の急激な低下を防いだものと推察され、馴致の重要性が確認された。
・また、越冬後の低下は、消波工内部の水深が20~40cmと浅いため、結氷や降雪の影響と考えられた。

ロ)セタシジミ
・牡丹川消波工(No6)のセタシジミは、11月まで94%と高い生残率を維持したが、越冬後の3月には52%まで低下した。
・越冬後の低下は、ヤマトシジミの再投入分と同様であり、浅い水深による結氷や降雪の影響と考えられた。

 牡丹川におけるかご内生存率 表
 夜叉袋におけるかご内生存率 表

(3)コドラート試験(H26~H27)

①試験方法

 消波工内への直接投入では、底泥の影響によりシジミが斃死した可能性があるため、コイの食害防止と底質の影響を確認するために消波工内にコドラート(1m×2m×高さ0.5m、網目2cm×2cm)を設置し、底質が現状のまま(対照区)と、砂に置換した(試験区)2種類で、生残率、体長組成を調査。

調査地点写真
   牡丹川河口消波工         夜叉袋消波工

②試験場所

コドラート調査地点位置 図
   牡丹川河口消波工No.2       夜叉袋消波工No.3

③種類及び投入量

場所 コドラート番号 種類及び投入量 底質条件
牡丹川河口
No.2
1 ヤマトシジミ 400個 自然状態
2 ヤマトシジミ 400個 砂5cm
夜叉袋
No.3
1 ヤマトシジミ 400個 自然状態
2 ヤマトシジミ 400個 砂5cm

④試験期間

 H26.10投入~H27.7再投入~H27.11

⑤結果

・2箇所とも平成27年3月までは生残率75%~92%と比較的良好な値を示したが、平成27年6月の調査では30%程度まで生残率が減少し、平成27年7月の調査では生残率が0となった。
・牡丹川消波工ではコイの食害が確認されたが、夜叉袋では確認されなかった。
・2箇所ともに平成27年7月に再投入(各400個体)したが、牡丹川消波工は平成27年8月には生残率0%、夜叉袋消波工は平成27年11月には12~29%だった。
・夏季の生残率の低下は、水温上昇やアオコの影響が考えられた。
・試験区と対照区に生残率の差は無く、底質の違いによる生残率の関係も分からなかった。

コドラート試験による生存率 表

(4)プラスチックかご試験(H27)

①試験方法

    コイの食害防止と底泥の影響を確認するため、シジミをプラスチック篭に入れ、蓋付きで底砂の有無、蓋なしで猫よけマットを置いた場合で生育の違いを調査。

プラスチック試験(蓋有 底砂無し)写真 プラスチック試験(蓋 底砂有)写真  [60KB]
区分A(蓋あり、底砂なし) 区分B(蓋あり、底砂5cm) 区分C(蓋なし、ネコよけマット)

②試験場所

      プラスチック試験位置 図
     夜叉袋消波工No3外側 

③種類及び投入量

区分 ヤマトシジミサイズ 投入量 かご数
A 区分ごとに2サイズ
 S(殻長 約18mm)
 L(殻長 約23mm)

各かご
100個体

各区分×各サイズ×2
=12かご
B
C

④試験期間

 H27.6~H27.11

⑤結果

・蓋ありのA、Bでは、各区とも7月の生残率85~99%から、9月には5~23%に大きく低下し、11月には4~19%だった。
・シジミのサイズ及び底砂の有無によるシジミの生残率に差は見られなかった。
・蓋なしのCでは、2ヶ月後には0%となり、コイの食害と考えられ、猫よけマットの効果は無かった。
   プラスチック試験生存率 表

(5)消波工試験の総括

・ヤマトシジミは、直接投入ではコイの食害を受け、コイの食害防止のためのカニかご、コドラート、プラスチックかごによる飼育でも、消波工内の水深が浅いため夏季に水温上昇やアオコの発生や冬季には降雪や凍結などにより、生残率が低下し、消波工内は生育環境としては厳しいことが分かった。
・セタシジミは、八郎湖産の成貝でサイズが大きく殻も厚いため、直接投入でもコイの食害を受けることはなく、1年後で7割、2年後で4割の生残率であり、特に冬期間の生残率の低下が見られ、消波工内の水深の浅さが影響しているものと推察された。
・これらの結果から、消波工内はシジミの生育には適していないと考えられた。
・なお、秋田県水産振興センターの調査では、コイに補食されないヤマトシジミの大きさは殻長28mm以上、セタシジミでは殻長23mm以上という報告がある。セタシジミの方の殻長が小さいのは、セタシジミは殻長が大きくなるほど殻厚が厚くなりコイが噛み砕けないためと考えられている。今回使用したヤマトシジミは20mm程度で捕食される範囲、セタシジミは38mm程度で捕食されない十分な大きさであったことになる。

2 湖内におけるホタテ養殖篭による食害防止試験(H28)

 湖内での生育試験を行うにあたり、コイの食害防止のため、ホタテ養殖篭による垂下方式により生育状況を調査。

(1)試験方法

 各試験場所に、3段式のホタテかごを縦横5本、計25本水中に吊し、各段にヤマトシジミを2kgずつ網袋に入れて挿入し、生育調査と水質調査を実施。


①生育調査
        各試験区のNo6のかごの中段に、調査用網袋(100個体)を挿入し、月1回、殻長、重量、生残率を測定
②水質調査
        各試験区の中央部と外部の2箇所で採水し、水温、pH、COD、全窒素、全リン、SS、
        DO、chl.a、透視度を測定
ホタテ籠調査方法説明 図
     かごの寸法、設置配置図

ホタテ籠調査方法説明 写真

(2)場所

 ・試験区1 調整池内の南部排水機場付近
 ・試験区2  〃   小深見川河口付近
       ホタテ籠調査位置 図

(3)試験期間

  H28.7~H28.11

(4)結果

①生育調査
・試験区2では、8月の生残率は55%となったが、試験区1では、7%まで急激に低下したため、試験区1の他のかご(5個×全段)を確認したところ、平均生残率は9%とほぼ同じであったことから、試験区1全体が急激な低下を起こしたことが分かった。
・その後、11月には試験区1は7%のまま、試験区2も51%で特に変化は無かった。
・試験区1では、波の影響でかご内のシジミが偏り、浮泥や排泄物があったが、生残率の急激な低下の直接の原因は分からなかった。
・いずれの試験区も8月3日から8月29日にかけて急激な減少を示したが、この間の気温(アメダス「大潟観測所」)は27日中17日が真夏日で、うち1日は猛暑日(35.7度)を記録していたことから、湖水の水温も高温状態が続いたものと推察されること、また管理水位が1mから0.7mへの移行期であり、水深が浅くなったことでかごが波浪の影響を受けやすく、振動や偏りが発生したことなどが生残率に影響したものと推察された。

   ホタテ籠生存率 表

②水質調査
・試験区1と2では、水質に大きな差は無く、各試験区の内外での差も明確な違いは無かったことから、水質の面からも試験区1の急激な生残率低下の原因は分からない。

(5)ホタテ養殖篭試験の総括

 ホタテ養殖篭の使用により、コイの食害は防止されたものの、新たに篭内に侵入したモズクガニによる食害が確認された。また、両試験区とも人手による調査がし易い、比較的浅いエリア行ったことで、水温が上昇しやすいことやホタテ養殖篭が波浪の影響を受けやすく、篭内のシジミが一旦偏るとシジミ同士が重なったままになるなど、生育環境としては不適当と考えられた。