八郎太郎物語(鹿角の伝説)

2009年12月17日 | コンテンツ番号 304

八郎太郎物語

第1章 竜となる

 今から何千年も前の昔のことである。草木村(現鹿角市大湯草木)の保田というところに、八郎太郎という名の17歳の若者が住んでいた。八郎太郎は体が大きく、身長が6尺(1.8メートル)もある力の強い若者であった。八郎太郎は、マダの木の皮(蓑などの材料として使う皮)を剥いで集めたり鳥や獣を捕り、それらを売って両親を養っており、村でも評判の良い若者であった。

 ある日のこと、八郎太郎がマタギ仲間の三治と喜藤と一緒に三人で遠くの山に、泊まりがけでマダの皮剥ぎに出掛けていたときのことである。八郎太郎が炊事当番の時、水汲みのため川に出掛けると、川の中に岩魚が三匹泳いでいた。八郎太郎は、その岩魚を三匹捕まえ、三人で一匹づつ分けて食べようと串に刺して焼いていた。そのうちに、こんがり焼けた美味そうなにおいに耐えきれず、仲間が戻ってくる前に魚を一口食べてみた。そのあまりのうまさに、「なんと、美味しいんだろう。おら、今までこんなにうまいものを食ったことがないや。」と独り言を言いながら、知らず知らずのうちに一匹全部、そして残りの二匹も食べてしまった。間もなく八郎太郎は焼けるような喉の渇きを覚え、そばに置いてあった桶の中の水を一口飲んだ。
しかし渇きは止まらず、全部飲み干してしまった。それでも、ますます喉は渇くばかりであり、ついには川の流れに顔を付けて川の水を飲みはじめた。そして、飲みに飲んで日の暮れるまで休まずに飲み続けた、ふっと顔を上げたとき、八郎太郎は流れの水面に映った自分の姿を見てびっくりしてしまった。そこに映っているのは、大きな火の玉のような真っ赤な目をした竜であった。八郎太郎は、いつの間にか竜になってしまったのである。

 山から戻ってきた三治と喜藤もこの有り様をみてびっくりし、「八郎太郎、お前どうなったんだ。ここはひとまず小屋へもどろう。」と八郎太郎を小屋へ連れていこうとしたが、八郎太郎は、「俺は化け物になってしまった。俺は、もう水から離れられない体になってしまったのでどこへも行けない。ここに湖を築き、この湖の主として住むことにする。親にはよろしく伝えてくれ。」と言うだけであった。
 二人の仲間もどうすることもできなく、仕方なく八郎太郎に別れを告げて草木の村に帰って行った。

 こうして、大きな竜になった八郎太郎は、10方の沢から流れる水をせき止め十和田湖を築き、深い湖の底に住む主となった。

第2章 南祖坊との戦い

 千年以上も昔、南祖坊と言うお坊さんがいた。南祖坊は「弥勒(みろく)の出世」(悩めるたくさんの人々を救う仏様が現れること)を願い、紀州の熊野山にこもって願掛けをしていた。その願掛け最後の夜、お堂の中で思わずトロトロと眠っていたとき、夢枕に白髪の老人が立ち、「お前の願いをかなえてやろう。だが、その前にお前は竜にならねばならない。ここに鉄のわらじと杖を置くから、杖の教える通りに歩きこの鉄のわらじと同じものを探しなさい。そこの場所がお前の願いをかなえる場所である。」と言って消えた。

 喜んだ南祖坊は、さっそく日本全国の山や湖を巡り歩き、一番最後にやってきた場所は神々しく美しい眺めの十和田湖であった。ふっと見ると、そばの洞窟の中に鉄のわらじが置かれていた。「ああ、神様が知らせてくださった場所はここであったか。これから、私はここに住むことにしよう。」と言って、湖の岸の上で、お経を読み始めた。その時、湖の底から「おい、こらあ。おまえは、つまらん人間のくせに、このような尊い場所へ来るんじゃない。さっさと立ち去るんだ。」と天地に響くような大きな声がした。

 南祖坊は、「お前は何者だ。ここは私が住む場所だ。私は神様のお告げで、この湖の主になることになったのだ。」と静かな声で言った。

 「なんだと。ここは何千年も前から俺が住んでいるのだ。立ち去らないとお前を飲み込んでしまうぞ。」その大声と同時に、天地が震え、大波の荒れる湖の上に八つの頭をもった大きな竜が浮かび上がってきた。そして、16本の角をふり立て、口から火を吹き舌を巻き上げて、南祖坊に飛びかかってきた。

 南祖坊は静かにお経をとなえ、八郎太郎めがけてお経を投げつけると、お経の一字、一字が剣となり八郎太郎の竜の体につきささった。さらに南祖坊がお経を衣の襟に刺すと、南祖坊も九つの頭をもつ竜に化け、八郎太郎の竜に向かって戦いを挑んだ。また、一方の八郎太郎は自分の着ていたケラの毛1本、1本を小さい竜に変身させ、南祖坊へ噛み付かせた。

 こうして、お互いの命をかけた激しい戦いは七日七晩も続いたが、さすがの八郎太郎も最後には南祖坊の法力に負けて、真っ赤な血を流しながら、十和田湖の御倉半島をはい上がって、どこへともなく逃げて行ってしまった。御倉半島の五色岩、千丈幕、赤根岩の色が赤いのは、八郎太郎の流した血の跡と伝えられている。

 八郎太郎が逃げて居なくなると、間もなく十和田湖はもとのように静かになり、南祖坊は深い中の湖の底に潜んで、湖の主となった。

第3章 鹿角の神々との争い

 南祖坊との戦いに敗れた八郎太郎は、やがて生まれ故郷の鹿角に帰って来た。青垣をめぐらしたような山々の高い場所に登り、鹿角中を眺めわたすと、西の遠方に、米代川、小坂川、大湯川の三つの川の合流地点に狭い谷あいの場所を見つけた。この場所は、右に男神(イザナギの命)、左に女神(イザナミの命)を祭っている場所であり、それぞれ木製のご神体が岩穴の中に祀られているという場所である。八郎太郎は早速、米代川をせき止めて自分の住む湖を作るため、男神と女神の間に近くの茂谷山(もやさん)を背負ってきて埋めようと考えた。そして、鹿角じゅうの葡萄のつると藤のつるを集め、大きな綱を編み、茂谷山を背負うために綱を山へ掛けた。

 そのことに気づいた鹿角の42人の神様たちは、ここを八郎太郎によって湖にされると自分たちの住む場所がなくなると心配し、皆が集まり相談した。この神様たちが集まって協議した場所が、現在の集宮(あつみや)の地名となっている場所と言われている。神様たちは、八郎太郎を追い出すことに決め、石ころを投げて八郎太郎と争った。今でも、毛馬内の陣場のあたりには大きな石や小さな石が多くあり、これらの石は、「神のつぶて石」(神様の投げた石)と言われ、八郎太郎を追い出すために神様たちが投げた石と伝えられている。

 この争いで、とうとう、八郎太郎は、茂谷山に掛けた綱をほどき、鹿角から逃げ出し、米代川を下って八郎潟(現在の大潟村の場所)まで行き、八郎潟の主となって暮らしたとのことである。