秋風が吹き始め、各地で初雪のニュースが流れる季節になりました。
 秋から冬にかけては、ノロウイルスをはじめとするウイルス感染による胃腸炎が増加する季節でもあります。
 ここでは、ノロウイルスによる感染症と食中毒について、お話ししましょう。

ウイルスとはどんなもの

 ウイルスは、細菌に比べ非常に小さく(ノロウイルスは、直径約38nm(1nmは、100万分の1mm))、また、一般的な細菌とは増殖の仕方が異なります。
 細菌は、増殖するために必要な栄養分と水分がある適度な環境下で、自ら自分の体(菌体)を作り、菌体の分裂を繰り返して増殖しますが、ウイルスは自分の設計図(遺伝子)を細胞に送り込んで、その細胞に自らのコピーを造らせることを繰り返して増殖します。ですからウイルスの体(ウイルス粒子)は、設計図以外の資材をすべて借り物で賄っていると言えます。
 ノロウイルスが取り付いて自分の分身を増殖させる相手(感染細胞)は、唯一人の腸管にある上皮細胞といわれています。
 感染した腸管上皮細胞で増殖したウイルスが、細胞を突き破って腸管内に広がることで、感染した人に、嘔吐、下痢など様々な臨床症状をもたらします。

 

環境への広がり(汚染拡大)

 腸管上皮細胞で増殖したウイルスは、腸管内に拡散し、その後、腸管内容物は便として感染者の体外に放出されますので、トイレを汚染したり、下水中に入り込んだりします。便器内の水跳ねがトイレの床を汚染させることは、様々な実験や研究によってよく知られています。
 ウイルス感染によって下痢をしている人がいないと思っていても、中には無症状の不顕性感染者もいますので、日頃からトイレの洗浄・消毒を徹底して、感染源となるウイルスを抑え込むことが大切です。
 特に、不特定多数の人が利用するトイレを清潔に保つことは、見た目以上に公衆衛生上重要なことです。トイレの清掃が行き届いていると利用する人も気持ち良いですし、公衆衛生上も好ましいことですので、トイレの施設管理をされる方は、特に秋から翌春にかけては、通常に増して衛生管理の徹底をお願いしたいと思います。

 

ノロウイルス食中毒とは

 ノロウイルスに汚染された食品、飲料水などを摂取することにより発生する急性感染性胃腸炎が「ノロウイルス食中毒」です。
 感染から発症までの潜伏期間は、取り込まれるウイルス量や遺伝子型にもよりますが、通常24~48時間とされています。
 主な症状は下痢、嘔吐、嘔気で、その他には腹痛、発熱、頭痛などが見られますが、多くの場合1~3日間で治癒します。
 なお、ノロウイルスによる感染性胃腸炎は、食品等を感染原因としていないものをいいます。(逆に、飲食に起因するノロウイルス感染症が、ノロウイルス食中毒です。)

 

発生時期等

 流行期は、10月末頃から翌年の4月頃までですが、最近では流行期が拡大(始まりが早く、終わりが遅い)傾向にあります。ちなみに平成29年は、前年度から6月頃まで発生が続き、すでに9月頃から発生が見られています。

 

食中毒発生における感染経路

 食品等を介したノロウイルス感染症には大きく2つの経路が考えられます。
  ① 加熱しない二枚貝の喫食(特に生牡蠣)
  ② 感染性胃腸炎発症者あるいは不顕性感染者の調理により汚染された食品の喫食(特に手指を介した食品の二次汚染)

 

〇 予防対策

 食中毒における感染経路を考慮し、次の予防対策を実施します。
 ① 牡蠣など汚染の可能性のある食品の生食を控え、食品の中心温度が85~90℃、90秒以上の加熱調理をして喫食す
   ることが推奨されています。
 ② 調理従事者に胃腸炎症状が見られた場合は、調理に従事させないなどの対応を徹底します。
   また、症状が完全に消失してもしばらくは調理作業を避ける。
   なお、調理従事者の家族に感染者がいる場合は、営業者(事業者)に自己申告し、調理に携わらないようにすることも
   大切です。
 ③ 手洗い設備の適正管理と、調理前や用便後等の適時の手洗いを徹底します。
 ④ 調理従事者をはじめとする関係者への衛生教育を徹底します。

 

消毒措置

 ノロウイルスの消毒には、塩素系消毒薬(家庭用漂白剤)が有効です。

 

手洗い消毒は、食中毒予防のみならず、
様々な感染症予防に効果的です。

簡単で有効な予防方法ですので、
日頃から習慣づけて実施しましょう。