マイクロサテライトDNA多型を用いた比内鶏の遺伝的多様性の調査

○力丸宗弘1・峰澤満2・石塚条次1・高橋秀彰2(1秋田畜試、2生物研)

目的

比内鶏は1942年に天然記念物に指定された秋田県を代表する地鶏である。秋田県畜産試験場(以下、試験場)では、1973年に秋田県声良鶏・比内鶏・金八鶏保存会(以下、保存会)を通じて比内鶏の種卵を導入して以来、外部からの異血導入を行わず、種鶏を維持してきた。これまで比内鶏の遺伝的多様性を網羅的に調べた研究はなく、試験場で維持している比内鶏と保存会の会員が飼育している比内鶏の遺伝的多様性の違いも明らかではない。そこで、本研究はマイクロサテライトマーカーを用いて、比内鶏の遺伝的多様性を調査したので報告する。

方法

試験場の比内鶏160個体及び2004年に場内でふ化した保存会の比内鶏195個体を調査した。血液から抽出したゲノムDNAを鋳型として、24個のマイクロサテライトマーカーをPCR増幅した。増幅産物を、DNA自動シーケンサーを用いてキャピラリー電気泳動を行い、各個体各マーカーの遺伝子型を判定した。その結果に基づいて、平均対立遺伝子頻度、平均ヘテロ接合性、遺伝距離(DA、Nei 1983)を算出した。

結果

試験場の比内鶏では、24座位全てがpolymorphicであった。一方、保存会の比内鶏では23座位がpolymorphicであり、1座位はmonomorphicであった。1座位当たりの平均対立遺伝子数は畜産試験場が3.7個、保存会が3.6個であった。平均ヘテロ接合度では、試験場の比内鶏は0.44、保存会の比内鶏は0.39であり、保存会の方が相対的に低い平均ヘテロ接合性を示した。これらの結果は、保存会の比内鶏は維持集団の規模が試験場に比べて小さいため、遺伝的多様性が失われる傾向にあることを示唆している。また、試験場と保存会の比内鶏集団間の遺伝距離は0.104であり、同一の集団から分化した遺伝的にかなり近い集団であることが示された。